- 2014-9-18
- ITビジネス, 電子書籍
- 三十四回, 個人出版, 林 拓也, 連載, 電子出版, 電子書籍
- 個人でも可能な電子出版 誰でもできる電子出版 第三十四回 はコメントを受け付けていません
■はじめに
Adobe社がリリースしているデスクトップ用EPUBリーダーアプリ「Adobe Digital Editions」(以下「Ditital Editions」)をご存じでしょうか。
Mac版、Windows版が共にリリースされている数少ないデスクトップ用EPUBリーダーアプリで、Adobe製ということもあり比較的よく利用されていました。
日本で広まり始めたのはver.2の頃で、その頃のEPUB仕様のバージョンは2.0.1でした。
EPUB2.0.1は、主に欧米の文書中心の仕様で、縦書き、ルビ、右開き、右から左方向へのテキストフローなどはサポートされていませんでした。
その後EPUB3仕様が策定され、世界の様々な書籍の電子化を想定して前述のような仕様が盛り込まれました。
Digital Editionsもver.3 になり、日本語の書籍で重要な、縦書き、ルビ、右開きなどがサポートされました。
ただし、EPUB3仕様がサポートされたわけではなく、Digital Editionsで縦書きのEPUBを利用する場合、EPUB2形式に縦書きの設定を追加したものや、EPUB2用の目次データを持たせることでEPUB2との互換性を持たせたEPUB3形式などが使われました。
さて、前振りが長くなりましたが、去る9/8(米現地時間)にDigital Editionsの新バージョンであるver.4がリリースされました。
今回は、Digital Editions ver.4を軽く触った感想を書いてみます。
■入手とインストール
Digital EditionsはAdobe Digital Editionsのページにアクセスし、[DOWNLOAD]ページに遷移してインストーラを入手できます。
なお、旧バージョン(ver.3/ver.2.0.1)も公開されています。
既に旧バージョンがインストールされている場合、ver.4との共存はできないようです。念のため旧バージョンをアンインストールしておきましょう。
さて、ここでお知らせしておくべきだと思うのは、ver.4はどうも動作が不安定な印象だという点です。特にWindows版はver.3と比べて基本的な部分での機能の劣化すら目につきます。
以下、その辺りにも触れていきますが、ver.4をお試しになる場合はこの点ご注意ください。
■ver.4の新機能など
ver.4の売りはいくつかあるのですが、いくつかピックアップして紹介します。
・EPUB3対応
縦書き、右開きなどはver.3でサポートされていたので、実用面からはさほどインパクトはないかもしれませんが、EPUB3の目次データが使えるようになったので、その点はよかったです。
また、関連してCSSも使えるものが増えたようです。
例えば、少し複雑なCSSによる見出しのデザインなどは、ver.3ではサポートされないCSSプロパティが多かったために表示が簡素化されることが少なからずありましたが、ver.4ではかなりのところまでサポートされています。
以下、ver.3とver.4の表示の違いの例です。いずれもモノクロデバイスを想定して、グレースケールのデザインとなっています。
・Media Overlays対応
Media Overlaysは本ブログでも何度か登場したEPUB3の仕様の1つです。
EPUB内に組み込んだ朗読音声データを再生し、該当箇所をCSSで指定したアクティブ表示(文字色を変えるなど)させるものです。
これも「EPUB3対応」の一環なのでしょうが、個人的に大きな機能強化なので敢えて別項目にしました。
Media Overlays対応の書籍を開くと[表示]メニューの[メディアオーバーレイを再生する]で再生を開始できます。
再生箇所はEPUB内のCSSで指定したようにアクティブ表示されます。
また、本文の任意のテキストをクリックすると、そこから再生を始めることもできます。
ただ、再生位置が次ページに移っても自動でテキストのページ遷移は行われず、手動でページ遷移すると再生位置が狂ってしまうようです。
また、再生中にウィンドウサイズを変更した場合にも再生位置が狂ってしまいました。
リフローでのメディアオーバーレイは技術的に難易度が高いであろうことが想像できます。
・固定レイアウト対応?
これも「EPUB3対応」かもしれませんが、やはり別項目で「?」を付けたのは、手持ちの固定レイアウト書籍があまりなく、テストが不十分だからです。
私が試した限り、1HTMLで見開きを構成する「紙芝居」タイプのものは概ね大丈夫そうでした。
ただ、2HTMLで見開きを構成する「書籍」タイプのものは、表示が崩れてしまいました。この辺りはデータの方の問題かもしれません。
・JavaScript対応
非常に驚いたのですが、JavaScriptにも対応していました。もちろん、どの程度までサポートされているのかは分かりませんが、jQuery+lightbox風ライブラリは動作しました。また、クリックで音声の再生・停止を切り替える処理も動作しました。
前述のCSSプロパティにも言えることですが、サポートされる範囲の公式な情報が欲しいものです。
・Windowsでの問題
Windowsでは、ver.3でサポートされていたいくつかの機能が無効になってしまっていました。これも個人的なテストの範囲なので、もしかしたら環境やデータの方の問題かもしれませんが、一応参考までに。
1.縦書きが表示されない
縦書きの書籍は横書きで表示されてしまうのですが、右開きの書籍の場合下部のナビゲーションは右開きが有効になります。その結果、横書きで右開き操作という気持ち悪い状況になってしまいます。
2.テキスト表示が低品質
ver.2ではDigital Editionsはテキスト表示がアンチエイリアシングの効かない残念な品質だったのですが、ver.3になってテキストの表示品質が改善されました。しかし、何故かver.4ではver.2時代の品質に戻ってしまっています。
3.埋め込みフォントが無効
ver.3ではEPUBに埋め込んだ埋め込みフォントが正しく表示されていましたが、ver.4では無効になってしまっていました。
他にもリリースノートを見ると、既知の問題などが掲載されています。やはりWindows関連が多いですね。
近いうちに更新版がリリースされるのを期待したいところです。
■最後に
Adobeの電子書籍向けレンダリングエンジンは、WebKitと並んで古くから様々なリーダーアプリに採用されてきました。
近年ではWebKitが多数派になってきている気がしますが、それでもAdobeのレンダリングエンジンのアップグレードはインパクトのある出来事だと思います。
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■著者プロフィール
林 拓也(はやし たくや)
テクニカルライター/トレーニングインストラクター/オーサリングエンジニア
Twitter:@HapHands
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