- 2026-7-3
- ITビジネス
- AIは貿易実務の「頼れる相棒」になれるか?トムソン・ロイターが示した“判断を支援するAI”の実力 はコメントを受け付けていません
「情報が多すぎて、人が判断しきれない」。これは、トムソン・ロイターのソリューション・コンサルタント、勝倉雄太氏が、現在の貿易実務を表現した言葉だ。関税政策や輸出規制は頻繁に変わり、HSコード判定や各国の法令確認など、企業の貿易担当者が調べるべき情報は増え続けている。膨大な情報を調査・整理し、その根拠を確認しながら正確な判断を下すことが、これまで以上に求められる時代になった。
こうした課題に対し、トムソン・ロイター株式会社は7月1日、東京都内で「トレード最先端AIソリューション体験ランチセッション」を開催した。テーマは「AIは貿易実務の"頼れる相棒"になれるか」。
会場では、生成AIを活用した貿易支援ソリューション「Global Trade Research powered by CoCounsel」と「Global Classification powered by CoCounsel」が披露され、AIをどのように貿易実務へ組み込み、人と協働しながら判断を支援していくのか、その具体像が紹介された。
単なるAI製品の紹介にとどまらず、生成AIによって貿易実務そのものがどのように変わるのか。その方向性も示された。
■貿易担当者を悩ませる「情報過多」という現実
講演では初めに、現在の貿易実務が抱える課題が示された。各国の関税政策や輸出入規制、経済制裁など、企業が確認しなければならない情報は年々増え続けている。
さらに近年は、米国や中国を中心に政策変更が相次ぎ、一度決まったルールが短期間で見直されるケースも少なくない。
その結果、担当者は日々膨大な情報を調査し、その内容を理解した上で判断しなければならない状況に置かれている。
また、HSコード(国際的な商品分類コード)の判定や輸出規制への該当有無といった専門性の高い業務は、経験豊富な担当者に知識が集中しやすく、人材育成や業務の引き継ぎが難しいという課題もある。
さらに、輸出入業務では「なぜその判断をしたのか」を説明できることも重要だ。判断を誤れば、追加関税や行政処分だけでなく、企業の信用にも影響しかねない。
勝倉氏は、「問題は情報が不足していることではなく、情報が多すぎて、人が判断しきれなくなっていることである」と現状を語った。
■企業はAIに何を期待しているのか
会場では、参加者を対象にリアルタイムアンケートも実施された。まず、「普段利用している生成AI」について尋ねたところ、CopilotやChatGPTの利用者が多くを占めた。一方で、勝倉氏は「半年前と比べ、自社専用AIを利用する企業が増えてきた」と説明する。
その背景には、企業の機密情報を扱う業務では、一般的な生成AIだけでなく、セキュリティやデータ管理を考慮した専用AIへのニーズが高まっていることがあるという。
続いて、「貿易実務でAIに最も期待すること」を尋ねたところ、「時間短縮」が最も多く挙げられた。
そのほかにも、コスト削減、リスク低減、最新情報の取得、調査時間の短縮、属人化の解消、専門的な判断支援など、多くの回答が寄せられた。
参加者の回答からは、AIに「人の代わり」を求めているのではなく、複雑化する業務を効率化し、判断の質を高めるパートナーとして期待している様子がうかがえた。
■AIは「答えを出す」のではなく、「判断を支援する」
講演で繰り返し語られたのは、「AIがすべての判断を担う時代ではない」という考え方だ。AIが得意なのは、大量の情報を短時間で調査し、必要な情報を整理すること。
さらに、HSコードや輸出規制に関する判定候補を提示したり、判断の根拠となる法令や過去の事例を探したりすることもできる。
一方で、法令の解釈や企業としての最終的な意思決定、その判断に伴う責任まではAIに委ねられない。
だからこそ重要なのは、「AIが答えを出す」のではなく、「AIが判断材料をそろえ、人が最終判断する」という役割分担だという。
「AIを安心して業務で活用するために重要なこと」として、
・出典や根拠が確認できること
・最新情報に基づいていること
・専門性の高い情報であること
・セキュリティが確保されていること
などを挙げる声が多く、企業の現場では「回答の正しさ」だけでなく、「なぜその答えなのか」を説明できることが求められていることがうかがえた。
実際、質疑応答では「ChatGPTなどの汎用AIを使った場合と比べて、アウトプットの精度はどのくらい違うのか?」という質問も寄せられた。
これに対し勝倉氏は、「一般的な生成AIとの違いは、貿易分野に特化した専門データをもとに回答を生成し、関連法令や事前教示などの出典・根拠を示せること、さらに最新の規制情報を参照しながら判断材料を提示できる点にある」と説明した。
■「情報を探す」から「判断を支援する」へ
トムソン・ロイターというと、「ロイター通信」を思い浮かべる人も多いが、現在は法律、税務、会計、金融、貿易など、専門分野向けの情報サービスやソリューションを提供するグローバル企業へと事業を広げている。
同社はこれまでも、貿易管理ソリューション「ONESOURCE」を通じて、関税情報やHSコード管理、輸出入コンプライアンスなどを支援してきた。
従来のONESOURCEは、必要な情報を検索・管理するプラットフォームとして、多くの企業の貿易実務を支えてきた。
一方、今回発表された新しいAIソリューションでは、生成AIを活用し、調査から品目分類、判断材料の提示までを一連の流れで支援する。
デモでは、「Global Trade Research powered by CoCounsel」が紹介された。例えば、「日本から米国へ半導体製造装置を輸出する際に注意すべき規制は」と質問すると、AIは関連する規制や関税情報を調査し、ホワイトハウスなどの政府機関や公的情報を出典とともに提示する。
単に回答を返すだけではなく、その根拠となる法令や公的資料まで確認できるため、担当者は複数の資料を探し回ることなく、必要な情報へたどり着くことができる。
講演で印象的だったのは、「AIが最終判断を下すのではなく、判断に必要な材料をそろえ、人が判断する」という考え方が、製品設計そのものに反映されていたことだ。
これまでのONESOURCEは「情報を探す道具」。今回のAIは、「必要な情報を集め、整理し、根拠まで示してくれる相棒」へ。
検索中心だった貿易支援システムを、担当者の判断を支援するAIへ進化させたことが、今回発表された新ソリューションの最大の特徴と言える。
■AIがHSコード判定の「根拠」まで示す
もう一つ紹介された「Global Classification powered by CoCounsel」は、HSコード(国際的な商品分類コード)の判定を支援するAIだ。
デモでは、半導体製造装置に使われる部品を例に、製品情報を入力すると、AIが該当する可能性の高いHSコードを複数提示。それぞれについて、用途や技術仕様などから導いた判定理由に加え、税関が過去に示した「事前教示(類似製品に対する公式な分類事例)」まで表示された。
例えば、「完成品」と「部品」では適用されるHSコードが異なるケースがあるが、AIは単に候補を並べるだけではなく、「なぜこのコードが適切なのか」を過去の事例や判定根拠とともに提示する。担当者は、その内容を確認しながら、自社製品に最も適した分類を検討できる。
さらに、判定結果だけでなく、参考にした事前教示へのリンクや判定理由、判断の信頼度などもデータベースへ保存される。「誰が、いつ、どのような根拠でこのHSコードを採用したのか」という履歴を社内で共有できるため、担当者が変わっても知見を継承しやすい。
勝倉氏は、「判定して終わりではなく、その知見を会社の資産として蓄積していくことが重要」と説明した。担当者個人の経験に頼っていたHSコード分類を、組織全体で共有・再利用できる仕組みへ進化させようという狙いだ。
今回のデモで印象的だったのは、AIが「答え」を示すことよりも、「なぜその答えなのか」という根拠を示すことに重点が置かれていた点である。
HSコードは企業の関税負担や輸出入手続きに直結する重要な情報だ。だからこそ、「候補を提示するAI」ではなく、「根拠まで確認できるAI」として設計されていることが、「Global Classification powered by CoCounsel」の大きな特徴と言える。
■専門業務AIは「判断を支えるインフラ」へ
生成AIは急速に普及し、多くの企業で活用が進んでいる。しかし、専門性の高い業務では、「便利だから使う」という段階から、「安心して業務に組み込めるか」が問われる時代へ移りつつある。
今回紹介されたソリューションも、人間の判断をAIに置き換えることを目的としたものではない。AIが情報収集や調査、分類、判定の根拠提示を担い、人間が最終判断を行うという役割分担を前提として設計されている。
講演全体を通して印象的だったのは、AIの性能そのものよりも、「出典を示すこと」「根拠を説明できること」「組織の知見として蓄積できること」に重きが置かれていた点だ。
関税政策や輸出規制が複雑さを増す中、企業の貿易担当者に求められるのは、膨大な情報を一から探し回ることではなく、AIが整理・提示した信頼できる情報と根拠をもとに、より的確な判断を下すことへと変わりつつある。
「情報を探す」から「判断を支援する」へ。今回トムソン・ロイターが示したのは、生成AIを単なる効率化ツールではなく、専門家の意思決定を支える「相棒」として活用する新しい実務の姿だった。
今回紹介された「Global Trade Research powered by CoCounsel」と「Global Classification powered by CoCounsel」は2026年中に正式提供される予定だ。
専門業務AIは今、実証実験の段階を越え、企業の現場で実際の業務を支えるフェーズへ入り始めている。
テクニカルライター 脇谷 美佳子
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代表取締役・ITライフハック代表
ITライフハック編集長・ライター
ITライフハック副編集長・ライター
