なぜauフィナンシャルサービスはサステナビリティを“全社員参加”にしたのか? 金融会社の現場から生まれた事業アイデアと組織変革

  • 2026-1-30
  • なぜauフィナンシャルサービスはサステナビリティを“全社員参加”にしたのか? 金融会社の現場から生まれた事業アイデアと組織変革 はコメントを受け付けていません
01

環境配慮、脱炭素、ESG――サステナビリティという言葉は、もはや特別なものではない。多くの企業が取り組みを掲げる一方で、「それが事業や組織を本当に変えているのか」という問いも同時に強まっている。

そんな中、auフィナンシャルサービスが選んだアプローチは少し異なる。専門部署でも、経営会議でもない。“全社員”が、自分の現業を起点に、金融と社会の関係を問い直す。それが同社の金融サステナビリティ事業創出プログラム「サステナDAY」だ。

■サステナビリティを「全社員参加」にしたら何が起きるのか
約6か月間、部署・職種を横断したチームで議論を重ねてプレゼンテーションするこの取り組みは、単なるCSR活動でも、アイデアコンテストでもない。

注目すべきは、扱われたテーマが環境対策にとどまらなかったことだ。「金融は、社会とどう向き合うのか」。金融アクセスの格差や高齢者の安全、デジタル社会の落とし穴。浮かび上がってきたのは、「次のサステナビリティは、組織と事業のあり方そのものに踏み込む」という現実だった。

なぜ、auフィナンシャルサービスはサステナビリティを“全社員参加”にしたのか。そこから、どんな事業の種と組織の変化が生まれたのか。本記事ではその現場を追う。

■なぜ“全社員参加”だったのか

02_fixed


取締役兼コーポレート本部長の本郷郁子氏は、取り組みの背景についてこう語る。

「auフィナンシャルサービスは、カード会員だけで1,000万人を超える規模のお客さまを抱えています。私たちが何かを変えれば、それだけ社会へのインパクトも大きい。だからこそ、社員一人ひとりに“自分たちの仕事が社会にどう影響しているのか”を実感してほしかったのです」

もう一つの理由が、急速な組織拡大だ。ここ数年で社員数は約3倍に増え、多様なバックグラウンドを持つ人材が集まっている。その中で、自社の独自性や働く意義を“体感”できる場が必要だったという。

「自分たちなら何ができるかを、仲間と考える。そのプロセス自体を楽しいと思ってほしかった」(本郷氏)

サステナビリティを“正しさ”として教えるのではなく、“やりがい”と結びつける。この発想が、全社員参加という設計につながっている。

■現場から生まれた、金融×社会課題のリアルな提案

03


最終発表会で披露された提案は、実に多様だった。象徴的だったのが、高齢者見守りをテーマにした金融サービスだ。クレジットカードの利用情報や位置情報を活用し、一定期間利用が途絶えた場合に家族へ通知する仕組み。独居高齢者の孤独死リスクという社会課題に、金融と通信の強みを掛け合わせて向き合う提案だった。

一方で、18歳(高校生を含む)~29歳までの若年層の金融リテラシー向上と、若年層が経済的理由によって活動が制限されない社会の実現を目指す提案も行われた。金融教育の受講者を限定に、低金利の専用プランの提供や、au PAY スマートローン返済額の1%の寄付を行うことで実体感を持った社会貢献を実現するというものだ。

子育てをしている親世代とその子どもたちの視点から生まれたテーマも複数見られた。忙しい子育て世代は、情報検索にかかる手間・経済的支援の不足・金融知識の欠如がペインポイントになっている。コミュニティサイトで、日常の困りごとやお金にかかわる困りごとのページを設け、内容に応じてauフィナンシャルグループの商品サービスの案内を通じて、グループ経済圏のサービス利用の拡大と多様化することが狙いだ。金融行動の延長線上で、親子の安心につなげようとする発想は、生活者に最も近い金融の役割を再定義するものだった。

また、若手社員から多く挙がったのがプラスチックカードへの問題意識だ。「カード会社こそ、プラスチック削減に本気で向き合うべきではないか」。そんな声をきっかけに、カードレス化や回収スキームをグループ全体で進める構想も語られた。

印象的なのは、どの提案も「壮大な理想」より、日常業務から生まれた違和感を出発点にしていたことだ。システム、加盟店事業、管理部門など、異なる立場の社員が、それぞれの知見を持ち寄ることで、現実味のあるアイデアに磨かれていった。

本郷氏は次のように振り返る。「一人ひとりが“自分の現業なら、ここを変えられる”という視点で話していた。それがチームになると、想像以上の力になることを実感しました」

■評価軸は「社会性×実装性」
このプログラムが“アイデア大会”で終わらない理由は、評価基準にも表れている。
評価項目は、「世の中の「困った」を捉えているか」「独創性・革新性などの当社らしさ」「企業理念との親和性」「インパクト・波及効果」「実現可能性が高いか」の5つ。プレゼン時間やフォーマットをあえて制限し、「本質を考えること」というメッセージが繰り返し伝えられたという。

結果として、オペレーションや制度設計まで踏み込んだ提案が予選ブロックから勝ち残った。発表を聞いた経営陣からのコメントには、「この取り組みは、すぐにもできそうだ」「そのプロジェクトなら、自分も一緒に参加したい」という声も上がり、実行可能なレベルまで落とし込まれていたことは、この取り組みの成熟度を物語っている。

■経営が拾い上げ、事業につなげるという発想
本プログラムの最優秀賞は、2026年2月27日に発表され、今後の事業化検討につながることが期待されている。ただし、その中で重要なのは、「そのまま事業化するかどうかは別」という考え方だ。本郷氏は、こう語る。

06_fixed


「すべてをそのまま形にするわけではありません。でも、経営陣の頭に残る。タイミングが来たときに“あのときのアイデアだ”と拾いにいけることが大事なのです」

実際、若手社員の提案が経営層の“宿題”として残り、グループ内での議論につながっている例もあるという。auフィナンシャルサービスが一貫して大切にしてきたことは、ボトムアップ。社員一人ひとりから生まれた声を、経営が受け止め、波が来たら事業にする。この循環こそが、全社員参加型の価値だ。

■サステナは組織と事業を動かす装置になる

07_fixed


発表会の最後には、代表取締役社長の長野敦史氏が総括コメントで締めくくった。

「今日の発表を聞いて、サステナビリティは特別な取り組みではなく、日々の仕事の延長線上にあるものだと改めて感じました。社員一人ひとりが、自分の業務を通じて社会とどう向き合うのかを考え続けることが、結果として事業の成長や信頼につながっていく。
今回出てきたアイデアを大切にしながら、これからも継続して取り組んでいきたいと思います」

auフィナンシャルサービスが掲げるコーポレートスローガンは、「つぎの信用を、創造しよう」。同社の取り組みが示したのは、サステナビリティが「正しいことを掲げる活動」では終わらないという事実だ。社会課題を考えることは、社員の視点を広げ、組織の横断を促し、結果として事業の新しい可能性を引き出す。

つまりサステナビリティはCSRにとどまらず、組織と事業を動かす装置になり得る。全社員参加は、決してコストではない。むしろ、中長期で効いてくる事業投資であり、人材投資だ。

このアプローチは、金融業界に限られたものではない。IT、通信、小売、メーカーなど、社会と直接向き合うすべての企業にとって、「サステナビリティを、誰が、どう考えるのか」という問いは、これからの競争力そのものになる。次の一手を生むのは、経営戦略でも、スローガンでもない。現場で交わされた、等身大の問いかもしれない。

テクニカルライター 脇谷 美佳子


auフィナンシャルサービス株式会社

ITライフハック
ITライフハック X(旧Twitter)
ITライフハック Facebook
ITライフハック YouTube

ITビジネスに関連した記事を読む
体験から納得へ、課題解決に伴走する新拠点「Epson XaILab」が新宿にオープン
三崎優太氏(元青汁王子)が電力事業へ参入!「でんき0」本格始動
くら寿司の田中社長が日本代表に決定!『EY アントレプレナー・オブ・ザ・イヤー 2025ジャパン』を開催
イノベーションにあふれた女性起業家を表彰!『EY Winning Women 2025』アワードセレモニーを開催
属人的コンプライアンスからAI主導の戦略運用へ!NAVEX CEOが語る、日本市場参入の狙いとGRCの未来

2025年度版 サステナビリティ・オフィサー試験問題集
一般社団法人金融財政事情研究会 検定センター
金融財政事情研究会
2025-06-04





関連記事

コメントは利用できません。

カテゴリー

アーカイブ

ページ上部へ戻る