- 2025-7-30
- ITビジネス
- プロダクト重視が成功の鍵! Adjust Ignite Tokyo 2025で聞いたアプリ「新世界」の戦略 はコメントを受け付けていません
アプリマーケティングをサポートするソリューションを提供するAdjustは、アプリマーケター向けのカンファレンス「Adjust Ignite Tokyo 2025」を7月23日に開催した。トークセッションでは、Adjustのスタッフに加え、大手からベンチャーまで、さまざまなアプリを開発する企業のメンバーが登壇。アプリ市場における最新のトレンドや、成長戦略についての話が交わされた。
■「量より質の新時代」に突入した日本アプリ市場
「最新日本市場のアプリトレンド」のセッションには、Adjustのシニアカスタマーサクセスマネージャーの大城 圭右氏と、モバイルアプリ・ゲームの分析を手掛けるSensor Towerのパク ジン氏が登壇した。パク氏によると「日本のアプリ市場は、コロナ禍明けの外出需要で一時停滞したものの、近年は再び伸長が見られる」という。
その伸びを牽引しているのが、ショートドラマなどのエンタメ系アプリだ。新規ダウンロード数で見ると、2024年上半期から2025年上半期にかけて、エンタメジャンルは、非ゲームアプリのなかでは唯一の二桁成長を遂げている。また売上面でも、エンタメは伸びを見せている。2020年のアプリ内課金売上はゲームが9割を占めていたが、2024年では7割となっており、非ゲームが成長を遂げている。その筆頭がエンタメ系アプリなのだ。大城氏は「ショートドラマなどに人気が集まるのは、20代・30代のユーザーにタイパを意識する傾向があるからではないか」と語る。なおエンタメのほかにも、漫画、SNSといったジャンルのアプリも収益を伸ばしている。
パク氏によると、非ゲームアプリのトレンドは「とにかくAI」。多くのエンタメアプリが成長した2025年上半期にあって、非ゲームアプリのなかで最もダウンロードされたのが「ChatGPT」だ。その数は900万にも及ぶ。「ChatGPT」は売上でも10位にランクインしており、AIの一般化が進行していることが窺える。パク氏はこの傾向について「非ゲームアプリの市場動向には、ユーザーの生活動態の変化が強く現れる」と述べた。
パク氏は、最新のアプリ市場では「ユーザーの量より質が重要になっている。ユーザーに、アプリの内容を理解させてからダウンロードさせる方向に向かっている」と語る。それが顕著に表れているのが、アプリのダウンロードを促す広告やランディングページだ。ゲームアプリでは「フィッシュダム」「トップウォー」といった人気アプリの広告で、プレイアブル動画を活用したものが増加。「フィッシュダム」は、2022年から2025年の間に、その数を4倍に増やしている。
また非ゲームでは「Webページ経由での新規アプリインストール数が増加している」と、パク氏は語る。大城氏によると、その理由は「アプリへ誘客するための広告をタップした際、直接アプリのダウンロードページに遷移させるのではなく、アプリの内容についてPRするランディングページを挟む手法が一般化しているため」。アプリの内容をランディングページで理解させることで利用意欲を醸成してから、ダウンロードしてもらうための配慮である。大城氏が「アプリ市場は、量より質の新時代へ」とまとめ、このセッションは幕を閉じた。
■AIと非AI、対照的なアプローチで成功したスタートアップ
続いてのセッションは、Adjustのセールスリード・高橋 将平氏による「Adjustが見つけた今後が気になるスタートアップ」。高橋氏は「アプリ業界にいると大企業にばかり目がいってしまうが、魅力的なスタートアップもたくさんある。こんな会社もあるんだ! とワクワクできる会社を紹介したい」との想いから、このセッションを発案したと語った。
そこで紹介されたのが、音声会話型AIアプリ「Cotomo」と、非AIの翻訳アプリ「Oyraa」だ。AIと非AIの、対照的な2つである。
「Cotomo」は、AIキャラクターと自然な会話を楽しめることをウリにしたおしゃべりアプリだ。これを開発したStarley株式会社の原田 聖子氏は「頭の良さではOpenAIに敵わない。だから、スムーズで自然な日常会話に特化した。相槌の打ち方や声色、返答の間、ユーザーの気持ちへの寄り添い方などにこだわりをもっている」と語る。
「Cotomo」は、YouTuberのHIKAKIN氏が動画で取り上げたことから人気が爆発。リリースから9ヶ月で累計100万ダウンロードを突破した。原田氏によると「運転中に眠くなるのを防ぐために、このAIと会話しながら車を走らせるトラック運転手の方もいる」という。
逆に、非AIを強みにしているのが、翻訳アプリの「Oyraa」。このアプリを利用すると、プロの通訳者をすぐに呼び出すことが可能で、電話、オンライン会議、ビジネスの現場での通訳を依頼できる。世界153カ国、3100人の通訳者と提携しており、24時間365日のニーズに対応。料金は1分単位の従量課金なので、費用も明瞭だ。
通訳者を呼び出すのに必要な操作は、言語と専門分野を指定するだけ。株式会社Oyraa代表取締役CEOのコチュ・オヤ氏は「LINEの通話をするくらいの簡単な操作」だと語る。このアプリの利便性は広い支持を集めており、ユーザーには大手法人も多い。「人ならではの安心感が支持されている」とコチュ・オヤ氏は述べた。
AIの便利さばかりが強調されがちな現代だが、AIにも人にもそれぞれの強みがある。2人のトークは、その役割分担の重要性を強く感じさせるものであった。
■3社のトップが語る「アプリのこれまでとこれから」
「競り勝ち、突破し、そして新世界へ〜アプリ競争時代のスケーリング戦略〜」のセッションには、アプリ市場の最前線で戦う3企業のトップが登壇し、立ち上げ時の話や、いまの成長戦略についての話が展開された。
20代に人気のマッチングアプリ「タップル」を開発する株式会社タップル代表取締役社長の平松 繁和氏は「何度も新規事業を立ち上げてきたが、大切なのは自分たちでどうこうするより、時流を読み、適切なポジショニングをすること」だと語る。「タップル」は他のマッチングサービスに先駆けて、アプリに特化したサービスとして展開し、スワイプ型というスマホ独自のUXを強みとした。また、他社のサービスが実名のFacebookアカウントとの連携が必須だったのに対し、それをせずとも利用可能にすることで、多くのユーザーに間口を開放。これによりライトなユーザー層を取り込んだ。
現在の「タップル」は「プロダクトが主で、マーケティングが従の思想のもと開発に取り組んでいる」という。20代という強みはずらさず、それにプラスしていままでアタックできていなかった層にリーチする施策を展開中だ。平松氏は「学生向けやシングルペアレント向け、結婚意識層向けの新機能実装・プロモーションを行なっている。結婚意識層向けの機能としては、マイナンバーカードを活用した独身証明機能を、業界最速で実装した」と語った。平松氏によると、「タップル」が目指しているのは「デジタル仲人」だという。
美容医療・整形の口コミ予約アプリ「トリビュー」の株式会社トリビュー代表取締役・毛 迪 氏も「立ち上げ時のポジショニングは弊社も大切にしていた」と述べた。毛氏によると「立ち上げ当初はまだマネタイズをしておらず、ユーザーとコンテンツ集めをしていた。ユーザーが知りたいのに、他のサイトやアプリで得られない情報は何かを追求していた」という。そこで辿り着いたのが、施術後の経過とドクター名だ。美容整形クリニックのサイトには、施術前後の写真が載っていることは多いが、施術直後の腫れの程度やそれがどの程度で落ち着いたかといった、ダウンタイムの情報はあまりない。また、施術を担当したドクターの名前についても書かれていないことが多かった。毛氏は「当時、美容整形のコミュニティはTwitter(現X)の匿名アカウントを中心に展開されていた。そこに入り込んで、ファン作り、コンテンツ集めに取り組んだ」と語った。
その後「トリビュー」は、アプリ予約限定の施術メニューやポイント機能などを実装したことで予約アプリとしての強みを得て、マネタイズに成功。ライト層の多い美容皮膚科ジャンルにも手を広げ、ユーザーを拡大している。現在の「トリビュー」について、毛氏は「4つの強みとして、迷わない、お得、簡単、安心を掲げ、『受けるべき施術、行くべきクリニックがわかる』サービスを目指している」と語る。また、運用の見直しによる効率化も進めているといい「KPIを変えたら単月で2000万円の利益改善が起きた事例もあった」という。毛氏は「今後は送客プラットフォームとして成長し、自由診療の総合プラットフォームになりたい」と野望を述べた。
アプリの立ち上げを通して、新たな市場開拓に挑んだのが、単発・スキマバイトアプリの「シェアフル」だ。シェアフル株式会社のCMO・浜野 善輝氏によると、「従来は、応募して、面接して、働いて、1ヶ月後に給与が振り込まれる、というのがアルバイトの流れだった。浜野氏は「人材業界のステレオタイプを捨てて、スキマバイトという市場を作る必要があった」と語る。面接を省略し、一定の条件に達している応募者を自動採用するというシェアフルが生み出したシステムは、時代のニーズに応え、大きな支持を集めることとなった。
浜野氏は「今後の成長のカギはコンパウンド型プロダクトにある」という。コンパウンドとは、複数のものを混ぜ合わせ、新しい性質や機能を持たせることをいう。「シェアフル」の場合は、スキマバイトに加え、ポイ活、クーポンといった金銭に類似するものを得られる機能を実装した。浜野氏は「スキマバイトというユーザー獲得チャネルを起点とし、サービスの複層化を実現することで、LTV(顧客生涯価値)の向上を狙っている」と述べた。「シェアフル」の現在進行形の目標は、スキマバイトを超えたプロダクトになることだ。
■マーケティングはプロダクトありき
Adjust Ignite Tokyoの参加者の多くは、現役のアプリマーケターだ。しかし壇上で繰り広げられていた話題は、マーケティングよりもプロダクトに関するものが中心であった。時代にあったいいものをつくることが、マーケティングの前提にあるということだろう。
日本の強みとして「ものづくり」が挙げられることは多いが、そのうちのひとつといえよう。本イベントの参加者のなかから、世界をあっと驚かすようなアプリを生み出す人が現れることを期待したい。
テクニカルライター 畑野 壮太
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