- 2025-3-10
- ITビジネス
- 金融企業が生成AIで逆転勝利する方法を語る!「金融機関は生成AIで成果を生み出せているのか」ラウンドテーブル はコメントを受け付けていません
アルテアエンジニアリング株式会社は2025年2月25日、東京大学大学院工学系研究科にて社会経済システムを研究されている和泉 潔教授を招いて、金融業界における生成AI活用について、ラウンドテーブルを開催した。本ラウンドテーブルでは、和泉教授と同社 営業本部 金融法人担当 セールスマネジャの及川 恵一朗氏が登壇し、金融機関における生成AIによる収益向上について議論を交わした。今、金融機関が直面しているAI導入の現実から業務効率化に向けて必要な取り組み、そして業務効率化のその先にある収益化に向けて必要な取り組みについてディスカッションを行った。
■今、金融業界が直面している現実
まず「今、金融業界が直面している現実」というテーマについて、アルテアが2月に実施した調査に基づいてディスカッションを行った。
・Topic1:
金融業界で働く人の半数以上が生成AIを「全く利用していない」と回答。生成AIを業務で利用しているかという設問に対し、金融業界で働く人の54%が「全く利用していない」と回答。
この結果を受けて及川氏は、金融業界ではトレーディング・マーケティング・リテールなどの様々な分野・部署がある中で、トレーディングの領域では生成AIの活用が進んでいない印象が強いと述べ、おおむね調査結果と同じ実情があると捉えていると説明した。一方でリテールの部分では活用が進み始めた状態であると説明した。
和泉教授も今回の調査結果が実情を表していると意見を述べた。昨年11月のアメリカの市場調査から、生成AIがピークを過ぎて幻滅期にあるといったレポートを引用しながら、とりあえず試しで使うフェーズは過ぎ、実際に現場で使えるかを試される中でなかなか活用できていない状況があり、それが今回の調査結果にも表れていると説明した。
・Topic2:
生成AIを「トレーディング情報などのデータ分析」に使用している人はわずか8%という結果に。
事務作業程度の活用がメインになっており、金融業界ならではの活用ができていない状態。
第1位「文章の作成・要約」第2位「情報の検索」と事務作業程度の使用がメインとなった。
続いて、生成AIの活用に関して金融業界ならではの活用が出来ていない状態を示す調査結果について、及川氏は、金融業界ではデータガバナンスなどのセキュリティの部分がで問題がディスカッションされているテーマだと述べた。その中では、クローズドな形で金融機関のアナリストやストラテジストが出しているコメントを集約させてチャットボットを構築し、社内の情報ツールとして活用する方法があると説明した。
和泉教授は、現状は明文化されているものをまとめる作業などでは活用されている現状があるが、一方でデータ分析などの明文化しづらいスキルについては技術的な発展の余地が多く残されていると見解を述べた。
・Topic3:
一般社員の半数以上が現在の生成活用目的を「あまりイメージが湧いていない」と回答。
役職者で業務効率化の先を見据えた回答を選択した人は1割未満。
現在の生成AIの活用目的を調査したところ一般社員の54%が「あまりイメージが湧いていない」と回答。全体でも45%が同様の回答。
役職者も生成AIを活用した最終的な目的を明確にできていないことが伺える結果となった。
レイヤーごとの活用目的にフォーカスした調査を取り上げ、金融業界全体として生成AIを使う目的が明確になっていないという調査結果について、及川氏は現場と役職者のギャップは大きく、生成AIという言葉が先行している状態かと見解を述べた。和泉教授は、明文化されたルーティーンワークの効率化としては使う目的がイメージされ、使われているが、ビジネスモデルのアイディアを考えることや運用業務での収益化の方針を立てるなどの、よりクリエイティブな部分については活用が進んでいない状態、あるいは使えなかった現状があると述べた。
そして、生成AIを活用していくべき部分について、和泉教授は「AIエージェント」の開発を挙げた。マーケット分析のためにどの情報を集め、どう分析するかなどの、実際の専門的な業務のワークフローまでを考えられる、サポートスタッフや相棒として使われるAIの活用方法を説明され、その活用・開発は進んでいない現状があると述べた。
・Topic4:
半数以上の一般社員が生成AIの活用による業務効率化が「全くできていない」と回答したのに対し、役職者は6割以上ができていると回答。
一般社員と役職者の間で生成AI活用による業務効率化について、ギャップがある調査結果を取り上げ、ディスカッションを行いた。 及川氏は、日常の業務が複雑化していることが大きい要因であり、生成AIで何が行えるかまで落とし込みができておらず、現場の活用が進んでいないとの結果は実情を表していると述べた。業務効率化に向けては実際の業務の理解に向けて現場社員とのコミュニケーションを進めていくべきだと説明した。
和泉教授も同様の見解であり、経営層はどの部署でもある程度事務作業があるので、今回活用していると回答されたと考えられると述べた。
一方で、現場社員では、経営企画や市場調査などの専門的な業務においてクリエイティブな分析がしたいという部分で、活用ができていない現状があり今回の調査結果になったとの見解を述べた。この調査結果から、ルーティーンワークの生成AI活用は進んでいるが、専門的な分野についての活用といった課題が表れている内容だと説明した。
・Topic5:
外部の専門家からの支援は役職者と一般社員で求めることの差があった。
生成AI導入・運用にあたり、外部の専門家からのどのような支援が必要かという問いに対し、
役職者は「生成AIの精度を上げるサポート」が1位(38%)となり、一般社員は「人材育成のための継続的なトレーニング」が1位(36%)という結果に。一般社員は活用への意識が低いように思えたが、教育環境を必要としていることが明らかになった。
続いて、現場では人材育成のサポートが求めれられているという調査結果に対して、及川氏はアルテアとして、人材育成ツールの提供による継続サポートや、モデリングして提供するサービスを行っていることを説明した。また、専門家の支援としては産学連携が重要だと述べ、金融機関の方の知識に加えて、大学生・大学院生の生成AIに関する専門的な知見をどのように融合するかが重要だと話した。
和泉教授も産学連携が一つの重要な鍵であると考えており、AIは技術開発がハイスピードで進むため、研究論文がなかなか追いつかない現状があるが、産学連携を行うことで、金融機関側のニーズと研究側の知見をぶつけ合う場所が必ず必要だと述べた。こういった取り組みが進んでいくことで、現場にあった専門的な生成AIの開発につながる可能性が出てくる。学生では現場のワークフローまでの知識がないので金融機関とタッグを組んで進めていくべきだと述べた。
併せて、アルテアのRapidMinerプラットフォームを活用した和泉教授の研修について紹介された。学部1年生に対する講義の中で、因果推論をグラフィカルに進めることが可能であり、より本質的な研修になったと述べられた。学生からの評判も好評だったと説明した。

■業務効率化に向けた取り組み
・業務効率化を実現するための障壁・現場の実態
金融機関での生成AI活用が進んでいない中で、各機関に必要な取り組みをディスカッションした。及川氏は、金融機関では必ずデータガバナンス・データセキュリティが一番の課題として出てくると述べ、データへのアクセス権など、どのようにデータをセットしていくかを解決する必要があり、それを会社全体で行うのか、グループだけで行うのかなど、どの範囲で行うかがフォーカスされていると話した。和泉教授は、金融機関では扱うデータが特殊で秘匿性が高いものであり、気軽にデータ分析ができないことが課題だと説明した。データをサンプル的にでも研究ができるような環境が揃えば、興味を持つ学生も増加し研究が進んでいくはずだと述べられた。
・日本と海外の金融機関の比較
和泉教授は国内外での違う点の1点目は機動力だと述べられた。海外では開発スピードが圧倒的に早く、生成AIがあることが前提で開発が進んでいく環境があると説明した。
2点目は、プロジェクトが単一の金融機関で留まってしまう特徴が日本にはあると述べた。場合によっては複数の金融機関で共通する基盤となるシステム構築が必要だと述べられた。及川氏も機動力について、海外の金融機関ではデータの連携までのスピード感があると述べた。
和泉教授は、現状は競争環境からデータを他の金融機関へ開示することは進んでいないが、生成AI開発の観点では、開発スピードの向上のために各金融機関がデータを開示し、共通の基盤を構築する必要があるとの見解を述べた。その基盤をカスタマイズし高度化することで競争力を確保するような流れ、方針が必要だと述べた。
・各業務効率化に向けて、各金融機関が取り組むべきこと
上記を踏まえて各金融機関が取り組むべきことをお伺いすると、和泉教授はまずは人材だと回答した。人材を育てるためには試す場の用意が必要であり、そのためには金融機関一社ではなく、複数社で共通化されたものが必要だと述べた。その延長として、スタートアップも含めた外部活用が重要だと説明した。
及川氏は現場の実情としても、学生たちの力も含めてアクションを進めていくべきだという方針は各金融機関は持っているものの、現状としてはどうアクションをとるべきかの部分で止まっていると説明した。和泉教授は学生連携について、リクルーティングの考え方もあるが、育てた人材が別の金融機関に進んでも全体的な技術の発展に活かせるという考え方も少しずつ広まってきていると話した。
これらの課題を受けてアルテアはトレーニングプログラムの提供や、実際にコンサルティングサポートとした人材の派遣を行っていると説明した。並走しながらモデルを作ることや生成AIの構築の支援、プロジェクトの立ち上げサポートについて紹介した。
■業務効率化のその先にある収益化へ
最後に収益化に向けた取り組みについてディスカッションを行った。
及川氏は、スモールグループでやっているという現状や、ファンドマネージャーが必要としている情報をインプットする進め方が重要であり、そこで必要となるのはデータの正確性だと説明した。データの解答の因果関係の整理などの精度の向上が収益化に向けた次の課題だと説明した。
和泉教授としては、金融業界の生成AI活用について、ホップ・ステップ・ジャンプでいうところのホップの段階だと述べられた。ホップは一般的な生成AIを使ってみる段階、ステップは前述のAIエージェントによる専門的な業務にカスタマイズされた活用の仕方であり、ジャンプはデータにない所、因果などのこれからの将来予測に関わる部分だと説明した。
海外でもジャンプまで進んでいる金融機関はほとんどいないと及川氏は述べた。和泉教授も現状ではホップの少し先だと述べられました。決まったワークフローをいかに効率化するかの段階にとどまっていると説明した。
収益化に向けて取り組むべき課題については、和泉教授はステップ領域に進む必要があると述べた。
ステップにおけるAIエージェントを活かすためには現場のワークフローをしっかりと把握することがまず重要であり、業務を整理してそれぞれAIに置き換えていく流れが必要だと説明した。
これに対して及川氏はアルテアはエンジニアが多くいる会社なので、ワークフローの把握や支援ができるポイントについて、因果の把握、産学連携を含めてサポートを進めていきたいと述べた。

登壇者プロフィール

<実施概要>
名称:ラウンドテーブル 「金融機関は生成AIで成果を生み出せているのか~収益向上のJourney~」
日時:2025年2月25日(火)13:30~14:30
会場:アルテアエンジニアリング株式会社 日本オフィス(東京都中央区京橋2-2-1 京橋エドグラン14階)
登壇者:
・アルテアエンジニアリング株式会社 営業本部 金融法人担当 セールスマネジャ 及川 恵一朗氏
・東京大学 大学院工学系研究科 和泉 潔 教授
■アルテアエンジニアリング株式会社
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