- 2014-1-21
- ITビジネス
- オフショア開発, セタ・インターショナル, テラス, ベトナム
- ベトナム人ブリッジエンジニアに聞いた!オフショア開発の「現状」と「展望」 はコメントを受け付けていません
「オフショア開発の問題と対策は? 開発現場の責任者が語るオフショア開発の現状」では、実際にベトナムでのオフショア開発サービスを提供している、株式会社テラスのブリッジエンジニアである山北氏より、開発の現場で実際に起きた問題や対策、工夫についての詳しい話をうかがった。
現場から見たオフショア開発の実態や、オフショア開発を円滑に進めるノウハウの重要性がご理解いただけたことと思う。
そこで今回は、オフショア開発を行うセタ・インターナショナル株式会社の、ベトナム ハノイ開発センターに所属するベトナム人ブリッジエンジニアであるNguyen Cao Cuong(グエン・カオ・クオン)氏に、日本企業向け開発案件のリアルな現状と展望を聞いた。
■開発の主流はウォーターフロー式からアジャイル式へ
「日本からの開発案件ですが、4年前はほとんどの案件がウォーターフロー式の開発でしたが、最近はアジャイル式の採用が多くなっています」と、クオン氏は言う。
「開発形式に関わらず、オフショア開発を成功させるために、我々は様々な工夫を行っています。たとえば開発個数の算出にバッファを設けること、進捗管理を徹底すること、問題が起きたときの対策と再発防止などです。」
オフショア開発には、距離や文化、そして言葉の違いを原因としたコミュニケーション・ギャップが発生しやすい。それらの溝を埋め開発を成功させるには、恒常的な自己啓発が欠かせないと、クオン氏は言う。
「日本語の勉強は重要です。今後も、日本人のように日本語を操れるよう勉強を続けていく必要があります。また、ブリッジエンジニアだけでなく、エンジニア全員が日本語を習得し、ユーザーとコミュニケーションを取れるようにしていくことがベストです。そのために私自身の人材管理や案件管理のスキルを上げていきたいと考えています。もちろんエンジニアとして技術スキルの向上は必須です」(クオン氏)。
オフショア開発の成功には、継続的なスキルアップが重要とのことだが、日本とベトナムで開発案件の傾向に違いはあるのだろうか。
「ベトナムでの開発案件は、日本での開発案件と比べると、仕様書の変更が多い傾向にあります。そのためか納期が延長される事が多く、案件が大規模化するとコストが高くなることもありますね」とクオン氏。
品質もよくない場合があるそうだ。そのため日本の開発案件に対応するときは、日本の考え方や文化を理解し、前述のような様々な工夫を続け、高いレベルの品質の要求に応えて顧客満足度を上げていくのだと、クオン氏は言う。
「日本とベトナムとの文化と教育はそれぞれ違います。しかし、ベトナム人の新卒エンジニアでも当社の教育プログラムと本人の熱意によって、日本のユーザーに満足してもらえる品質と生産性を実現できます。ぜひユーザーには、我々オフショア開発のエンジニアを、同じ目的を共有するチームの一員として見てもらいたいと思います」(クオン氏)。
最後にオフショア開発成功のコツについて聞いてみた。
「日本側の担当者が技術者であるほうが、成功しやすいと思います。エンジニア同士コミュニケーションが取りやすく、問題点を共有しやすいためです」(クオン氏)。
コミュニケーションの重要性を繰り返し語るクオン氏は、「なおベトナム人は酒が強いので、日本人の方はベトナムで飲まれるときは注意してください(笑)」と付け加えた。
■ 品質管理で「開発文化の違い」を乗り越える
次に日本とベトナム、それぞれの開発案件の違いに関して、7年以上の品質管理に携わったフェン氏に話を聞いた。「まず、従来のベトナムでの開発案件では、コーディングコンベンション、単体テスト、GUIテストが不十分であるケースがありました。品質管理フェーズでも、セキュリティテストが実施されていない場合があります。」
対して日本の開発案件は、ユーザーからの品質要求レベルが極めて高いところにある。そのためフェン氏は次のような方法で、日本の顧客の要望に応えているという。
「まず進捗の管理を徹底します。問題・課題が発生したとき、お客様からの新しい要求があったとき、再見積やスケジュールの調整は非常に難しい部分になります。そこがスムーズに動くよう、進捗を慎重に調整していきます」(フェン氏)。
さらにフェン氏は、品質管理の現場で様々な工夫をしているという。「重大な問題が発生しないようにリスクモニタリングをしっかり行っています。また、PDCA(Plan-Do-Check-Action)によるプロセスの改善やKPT(Keep- Problem -Try)の情報共有を習慣化しています。そして、製品開発の品質をだけではなくその元になる資料やコーディングの品質もよりうまく管理できるように力を入れています。」とフェン氏。
常に自分の専門に関する知識の向上を心がけているフェン氏は「チャンスがあれば日本でリスクの管理やプロジェクト管理等を勉強したいです」と最後に語った。
■心に残るアプリ開発を実現するノウハウとは
アプリ開発に長けたブリッジエンジニアのThanh氏。彼には印象に残っているアプリケーションがある。それは、毎日1秒ずつ撮影を続けることで一年を記録できる写真アプリだ。タィン氏は毎日1秒を使って自身の子供の写真を登録し続け、一年後に動画を再生すると、子供が一歩ずつ成長していく姿をはっきりと確かめることができたそうだ。
「父親にとって子供の成長を見るのは何よりの喜びです。」とタィン氏。
心に残るアプリ開発を実現するためには、どのようなノウハウが必要だろうか。「ベトナム国内の開発案件は、概要さえあれば開発を進めることも可能です。しかし日本の開発案件は仕様書を用意してもらう必要がある」とタィン氏は言う。
「ベトナム人同士なら考え方、物事の分析の仕方に共通点が多いので、案件の概要だけあればある程度スムーズに進めることができます。しかし日本人とベトナム人は考え方にギャップがある。そのため仕様書を作成して案件の展開や、開発の仕方を共有しないとそのギャップが様々な問題を生む可能性が高くなるのです」(タィン氏)。
ただしどんな仕様書でもいいわけではない、とタィン氏は付け加えた。「誤解を生みださない正確な(表現の)仕様書が必要です」(タィン氏)。
開発とテストフェーズを行う際には開発工数の減少と品質向上が必要だという。「たとえばSNS連携で共通のライブラリなど、他の案件でも使い回せるソースを作成し、活用することで開発工数を減少させる効果が期待できます。また、品質を向上させるためにはソースコードレビューをしっかりやることや、テスト支援ツールを作成するなど工夫が必要です」とタィン氏。
また、タィン氏はオフショア開発のQA部分について、主な流れを説明してくれた。
1)顧客から仕様書を受け取る。
2)ハノイでQA一覧を作成し顧客に提出する。
3)顧客の確認後、作業を進める。
「QA数が多くなると、一覧の作成や確認に時間がたくさんかかる場合があります」(タィン氏)。その場合、ベトナム人ブリッジエンジニアが日本に駐在するか、逆に日本人のブリッジエンジニアがベトナムに駐在することでコミュニケーション・ギャップを埋め、確認コストを削減するなどの対策がおすすめだとタィン氏は結んだ。
「日本の開発案件に携わるために日本語の勉強は当たり前ですが、新しい技術・難しい技術や品質管理に関する知識などを常に取り込んでいかないと取り残される。加えて、ドキュメント化スキルなどのソフト面でのスキルをマスターする必要があります。」とタィン氏は述べ、幅広い分野でのスキルアップの重要性を強調していた。
■パイロット案件でスモールスタート!やがて本格的なパートナーへ
「日本の会社との長期的開発契約を得るためには、信頼関係を築くことが一番大事です」とトゥアン氏は語る。「特に大企業と開発契約を締結する場合は、パイロット案件(メンテナンスまたは規模の小さい開発案件)から始まって、徐々に本番のプロジェクトに進む流れとなることが多いです。お互いの考え方と案件の進め方を理解した上で、信頼関係を築いた後に本格的な戦略的パートナーになることも多いです」(トゥアン氏)。
だが小規模案件で円滑に開発できたとしても、大規模案件が必ず成功するとは限らない。「まず、人材採用の難しさがあります。大きなプロジェクトになると人手も数多く必要になります。しかし、現在ベトナムでは日本語ができる開発者、ブリッジエンジニア、プロジェクトエンジニアの供給が足りません。採用できたとしても、業界平均離職率が20%と人の移動が頻繁なベトナムのIT業界では、人材保持に力を入れることが重要です」とトゥアン氏。
トゥアン氏が所属するセタ・インターナショナルでは福利厚生に力を入れ、離職率の低減に効果を出しているという。
「また大規模案件では、コミュニケーターを利用する必要が出てきます。ただし技術者ではない、または技術者を経験していないコミュニケーターを介すると、仕様漏れのリスクが出てきます」とトゥアン氏。また、ベトナムのインフラは日本に比べ脆弱で、作業中にネットワークや通信の問題が起きることもあるという。
「確かにベトナムでの開発には、不利な要素が色々とあります。これらの要素をクリアして成功するためにはリソースを効率的に使用していかないといけません。品質改善のための仕様への理解力向上に始まり、ソースコードを作るときは、自分でのテスト、単体テストを実施できることが大切です。また、開発事業はチームワークが重要なので、一人だけが工夫するのではなく、チーム全員が課題の共有、相談、対策に力を入れていくことが大事です」(トゥアン氏)。
最後に、今後の日越の戦略的な関係に関して、トゥアン氏が自分の考えを述べた。「ベトナムの人的資源は優秀だと思います。しかし、日本の顧客が求める水準に達しているわけではありません。そういった点を正しく理解したう上で、目標を達成できるよう時間をかけて教育を続けていきたいと思っています」とトゥアン氏が語った。
以上、オフショア開発の現地開発スタッフの貴重な声をお届けした。普段海の向こうにいる現地エンジニアの姿がはっきり見えたことと思う。
オフショア開発という言葉も一般化してきた感があるが、それを成功に導くには、関係者間のコミュニケーションと相互理解が必要であることは、国内のビジネスと何ら変わりないことが理解できたと思う。そしてセタ・インターナショナルのベトナムハノイ開発センターのエンジニアたちはそのことを経験からよく知っているようだ。
今後の彼らがどのような発展を遂げるのか、大いなる期待を込めて見ていきたい。なお、セタ・インターナショナル株式会社では2013年12月19日(木)に、ベトナムオフショア開発のノウハウと事例を紹介するセミナーを開催した。
セミナーでは、実際にオフショア開発を導入した株式会社ゴルフダイジェスト・オンライン、株式会社ぐるなび、株式会社テラスの三社がその体験を語り、オフショア開発について学ぶ貴重な機会になったという。
今後もセタ・インターナショナルでは、オフショア開発のビジネスに役立つ情報を提供していくそうだ。ベトナムのエンジニアに加え同社の動向にも注目していきたい。