宇宙服はなぜ動きにくい?「Amateras Space」が挑むMCP技術と“人間OS”【IVS2026】

  • 2026-8-28
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宇宙服は、人間の生命を守る一方、内部の圧力によって動きにくくなるという課題を抱えている。「IVS2026」に出展したAmateras Spaceは、服で身体に圧力を加える「MCP技術」をはじめ、宇宙飛行士の生体データと周辺環境を統合する“人間OS”の開発を進めるスタートアップだ。同社が描く次世代宇宙服の姿と、廃炉、防災、医療など地上分野への応用可能性を取材した。

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2024年に設立されたAmateras Spaceは、宇宙服やECLSS(環境制御・生命維持システム)の研究開発と社会実装を目指すスタートアップだ。代表取締役の蓮見大聖氏は取材で、同社について「国内で唯一、宇宙服を手がけるベンチャー」と説明した。

同社は2026年1月、エンジェルラウンドでの資金調達を完了した。船内用与圧服の初期実証や、MCP(メカニカル・カウンター・プレッシャー)技術の検証・高度化に向け、開発体制の強化を進めている。

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■「VESTRA」は宇宙服の未来像を示すコンセプトモデル
Amateras Spaceが発表している「VESTRA」は、日本の伝統技術と宇宙開発を組み合わせた次世代宇宙服のコンセプトモデルだ。西陣織を取り入れた外観が特徴で、2025年には大阪・関西万博でも展示された。

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ただし、VESTRAそのものが宇宙空間で使用できる完成済みの実用宇宙服というわけではない。宇宙時代における装いの可能性や、人間の身体を拡張するウェアのあり方を表現したモデルとして位置付けられている。

同社はVESTRAを起点に、まずは宇宙船の打ち上げ時や帰還時などに着用する船内用与圧服「IVAスーツ」の開発に取り組み、将来的には船外活動用宇宙服の実用化を目指している。

■宇宙服が膨らむと、なぜ動きにくくなるのか
真空に近い宇宙空間で人間の身体を守るには、宇宙服の内部を適切な圧力に保たなければならない。一般的なガス加圧式宇宙服では、内部に気体を満たし、身体に必要な圧力と酸素を確保する。

一方、内部から膨らもうとする宇宙服の関節を曲げるには、その力に逆らって服を変形させる必要がある。このため、地上で衣服を着ているときのようには身体を動かしにくく、関節部分の構造や可動性が宇宙服開発における重要な課題となる。

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蓮見氏はこの現象について、飛行機に持ち込んだスナック菓子の袋が、地上よりも気圧の低い機内で膨らむ例を挙げて説明した。

「皆さんが思っている以上に、真空環境で身体を動かすのは難しいんです。飛行機にポテトチップスを持っていくと、袋がパンパンに膨らみますよね。宇宙服でも同じように、内側から膨らもうとする力がかかります」

Amateras Spaceは、この課題に対し、関節部分の構造や設計を中心に研究を進めている。

■服で身体を圧迫する「MCP」技術
Amateras Spaceが研究開発を進める技術の一つが、MCP(Mechanical Counter Pressure:メカニカル・カウンター・プレッシャー)だ。

ガス加圧式宇宙服が、気体で満たされた服の内側から身体を加圧するのに対し、MCPでは身体に密着する素材を用い、皮膚の外側から機械的に圧力を加える。宇宙服全体を大きく膨らませずに身体に必要な圧力を与えられるため、従来型の宇宙服よりも動きやすくなる可能性がある。

蓮見氏によると、同社では旧ソ連で高高度飛行用に使用された補償服「VKK-6M」のような仕組みも参考にしながら、MCP技術を応用した構造を検討しているという。

ただし、身体は複雑な形状をしており、関節や身体のくぼみを含むすべての部位に均一な圧力を加え続けることは容易ではない。圧力に偏りが生じると、着用者の安全性や快適性に影響を及ぼす可能性がある。

Amateras Spaceは、こうした圧力の不均一性を解消しながら、宇宙服の可動性を高めるための検証と改良を進めている。

■内側と外側のデータを統合する「人間OS」
Amateras Spaceが目指しているのは、身体を保護するハードウェアとしての宇宙服だけではない。

蓮見氏によると、同社は宇宙服のインナーから着用者のバイタルなどの生体データを取得するとともに、ヘッドカメラなどを使って周囲の空間データを取得する仕組みを検討している。

地球から離れた月面などでは通信に時間差が生じるため、地上の管制担当者が現場の状況を確認しながら、すべての判断を即座に指示することは難しくなる。

そこで同社は、身体の内側から得られる生体データと、外側から得られる空間データを統合し、宇宙飛行士の状態や周囲の異常をリアルタイムで把握するための意思決定アルゴリズムを構想している。

「バイタルと外側の空間データを読み取って、宇宙飛行士のパフォーマンスがどうなっているのかを判断するアルゴリズムを作ろうとしています。宇宙飛行士のための“人間OS”です」

将来的には、地上の管理担当者が逐一判断しなくても、現場のシステムが着用者の状態や周囲の状況を解析し、その場で適切な行動を支援することを目指しているという。

■宇宙服技術を廃炉や防災、医療などの地上分野へ
宇宙服のために開発されるセンシング技術や身体保護技術は、宇宙だけでなく、地上の極限環境にも応用できる可能性がある。

Amateras Spaceは、放射線環境に対応するスマートスーツの開発を通じ、廃炉作業や防衛分野への展開を進めている。さらに、災害現場や地下開発、医療、産業安全などへのデュアルユースも視野に入れている。

取材では、バイタルデータと周辺環境を組み合わせる仕組みについて、遠隔医療への応用も紹介された。

スポーツやエンターテインメントへの展開も考えられるという。蓮見氏は、サッカーの試合などで選手の状態を取得し、ゲームのステータス画面のように「攻撃力」「防御力」「HP」として可視化する構想を例に挙げた。

現時点では将来の応用構想だが、宇宙飛行士の安全を守るための技術が、地上における健康管理や作業支援、スポーツ観戦の新たな体験につながる可能性を示している。

宇宙服は、単なる特殊な衣服ではない。人間が過酷な環境で安全に活動するための生命維持装置であると同時に、身体や判断能力を拡張するためのプラットフォームにもなり得る。

Amateras Spaceが掲げる「人間OS」は、宇宙飛行士を守る宇宙服の枠を超え、人間と環境の関係を再設計する試みといえそうだ。

Amateras Space株式会社

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新井 一
東洋経済新報社
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