個人でも可能な電子出版 誰でもできる電子出版 第六十三回


■はじめに
早いもので今年も最後の記事となりました。今回は、年末恒例のJEPA(一般社団法人日本電子出版協会)による「JEPA電子出版アワード」の結果を中心に触れていきます。

■JEPAの電子書籍アワード大賞「Vivliostyle」
JEPAの電子書籍アワードは、いくつかのジャンルごとに候補が選定され、毎年11月下旬からネット投票でジャンル賞が選定されます。大賞は各ジャンル賞の中から会員社と選考委員による投票で選定され、12月18日に決定されました。

ジャンル賞および大賞は以下の通りです。

■「JEPA電子出版アワード」各賞概要
デジタル・インフラ賞:POD流通サービス(インプレスR&D)
スーパー・コンテンツ賞:火花(文藝春秋)
エクセレント・サービス賞:ヤマタイム(山と渓谷社)
チャレンジ・マインド賞:旅色など(ブランジスタ)
エキサイティング・ツール賞:Vivliostyle(ビブリオスタイル)
大賞:Vivliostyle
JEPA公式ページ

大賞の「Vivliostyle」は、HTML5/CSS3ベースのコンテンツファイルから、EPUB、Webコンテンツ、PDF(印刷版)を制作できる、株式会社ビブリオスタイルのシステムです。

代表取締役社長の村上真雄氏は、以前はアンテナハウス株式会社で電子出版サービスを手がけていらっしゃったと記憶しています。何年も前からワンソース・マルチユースのシステムを研究・開発していらっしゃったと思いますが、それが「Vivliostyle」で結実したということなのでしょう。

日本語組版では、縦書き、ルビ、縦中横、右開き、行末の揃えなど、多言語と比べて独自色の強いルールが要求されてきました。それらがこの数年で、スタンダードな技術としてサポートされてきたことが「Vivliostyle」にとって追い風となったことでしょう。従来は(あるいは現在も)印刷版が先にあり、それを元に電子版を作成するというフローでした。

印刷版は見た目の帳尻を合わせることを優先してきたので、データ構造を重視するEPUBやWebコンテンツを後から制作するのは容易ではありません。HTMLやCSSの表現力が向上し、印刷版の組版をかなりのレベルで実現できるようになったことで、HTML/CSSをソースとした「Vivliostyle」のような効率的なシステムが急速に需要をのばしているのでしょう。さて、「Vivliostyle」のスゴさは、その先見性や効率性だけでなくオープンソースとして誰でも利用が可能である、という点にもあります。

2013年の大賞だった「でんでんコンバーター」(EPUB制作サービス)や2014年に選考委員特別賞を受賞した「BiB/i」(ブラウザベースEPUBリーダー用フレームワーク)も、無償あるいはオープンソースとして利用可能です。このような高い社会貢献性に感謝と敬意を感じると共に、事業としての成功も願ってやみません。

■おわりに
大賞の「Vivliostyle」は印刷版まで扱うサービスです。ちなみにデジタル・インフラ賞を受賞したインプレスR&DのPOD流通サービスも、プリント・オン・デマンドによる印刷版を代行するサービスです。どちらも電子版だけのサービスではなく、電子版と印刷版の複合したサービスであることが目を引きます。

来年は、電子書籍の市場が予想通りに拡大するのか、電子版と印刷版が互いに市場を活性化させるような関係になれるのか、個人出版は広がるのか、といったところが個人的に気になっています。

来年は1月21日からスタートしたいと考えています。

それでは皆さまよいお年をお迎え下さい。

以下、トレーニングの告知です。

トレーニングスクール ロクナナワークショップにて、電子書籍関連のハンズオン講座を行います。ロクナナの講座は少人数制でしっかり深く理解できます。

■「Apple:iBooksストア用電子出版講座
日時:2016年1月30日(土)11:00~18:00
料金:29,800円(税込み)
会場:東京原宿(ロクナナワークショップ)

■「Amazon:Kindleストア用電子出版講座
日時:2016年2月20日(土)11:00~18:00
料金:29,800円(税込み)
会場:東京原宿(ロクナナワークショップ)

講座内容のご確認などはロクナナワークショップお問い合わせフォームよりお送りください。

■著者プロフィール
林 拓也(はやし たくや)
テクニカルライター/トレーニングインストラクター/オーサリングエンジニア
Twitter:@HapHands
Facebook:https://www.facebook.com/takuya.hayashi

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