日本企業の海外進出において重要なのは、システム構築の工期短縮と低コスト化だ。いかに早い納期で、そしてなるべく安価にシステムを構築することが求められている。そこで注目されているのがオフショア開発だ。高い品質のシステム開発および管理運用を国内の業者に頼むよりも安く依頼できるため、多くの企業がオフショア開発を採用し始めている。
そこで、オフショア開発を導入するメリットに関して、本企画で何回かに分けて紹介して行きたいと思う。まずは実際にオフショア開発を導入し、そして成功した事例を紹介しよう。
今回、基幹システムの再構築、そして自社サービスのグローバル展開に必要なシステム開発をするのにベトナムでのオフショア開発を採用、現在も順調にプロジェクトを進めている中古車買い取り最大手の株式会社ガリバーインターナショナル(以下、ガリバー)の事例を紹介しよう。
同社のITチームに所属する坂口直樹氏にオフショア開発における「開発パートナーの選定方法」、そしてオフショア開発でのプロジェクトを成功させるために「日本側で行う必要のあるタスク」について聞いた。
「当社は2018年2月までにASEANで800店のネットワークを構築する計画です。その第一弾として2014年3月に1号店をオープンさせました。(およそ4年間で800店舗を達成するために)今後も続々と新規店舗を開店させていきます。そのためには、マーケティング戦略につながる情報システムの充実とグローバル展開を狙うための基幹システムの再構築が必要となりました。そこで 2013年5月頃にオフショア開発の検討を始めました。」とオフショア開発の採用に至った経緯を坂口氏は語った。
■オフショア開発での基幹システム再構築に最初は不安しかなかった
坂口氏によると、オフショア開発の拠点としてベトナムを選んだ理由は「政治が安定している」「親日である」「 IT技術レベルが高い」「言葉(英語、日本語)が通じる」という4つの理由があるそうだ。
「当社が契約するセタ・インターナショナル(以下、セタ)の場合、現地プロジェクト・マネージメントの担当者(以下、PM)は日本語が流暢で、開発者 、QA( Quality Assurance: 品質保証)の中にも日本語を話せる人の割合が多いです。」と日本語でコミュニケーションが取れることの重要性を強調した坂口氏、それでは英語はどうして必要なのだろう?
「英語が使えるメリットですが、たとえばアメリカで新しい技術が発表されるとすぐにアプローチでき、最新の技術に追従できることです。ベトナム人は小学校から英語を学んでいるので英会話はほぼ問題がありません。そして、当然のことですがグローバル展開には英語が必須です。」(坂口氏)。
言葉の壁を乗り越えることができることはわかった、しかし業務の中心を管理する基幹システムの再構築を依頼するとは思い切ったことをすると思うのだが・・・。「言葉の問題がないとはいっても、基幹システムは企業の屋台骨です。そこに新機能を実装するといった付加価値を追加するというようなことがないと、基幹システムを再構築する意味がありません。」と坂口氏。その通りだ。わざわざ自社の屋台骨を初めてのオフショア開発に委ねるとは思い切った決断である。そこに不安はなかったのだろうか・・・。
「当社のエンジニアはあまり英語を話せず、オフショア開発経験がありませんでした。今まで使っていた国内パートナーは、いわゆる丸投げ的なプロジェクト発注が多く、これがオフショア開発になると当社内部で要求定義や仕様書などの細かい指示がどこまで必要になるのかなど、分からないことばかりでした。こうしたことから最初は不安しかありませんでした」と、坂口氏は笑顔で当時を振り返る。
このような不安があったため、まずは営業用のiPadアプリケーションの再構築プロジェクトを“トライアル”として設定。5人規模の小さいプロジェクトからオフショア開発をスタートさせた。
■ガリバーがオフショア開発導入に成功した秘訣
坂口氏によると「トライアルでのプロジェクトの結果は、国内開発ベンダーと遜色ないアプリケーションの開発が、当初想定していたコストの半分でできました。当然、社内でも好評価を貰えました」。それは当然だ。満足できる品質のものが予定していた半分のコストでできたとなれば、高い評価を得るのもうなずける。
「この成功をきっかけに、多数の開発プロジェクトを依頼しました。2013年7月から現在まで(2014年3月末)の9か月間で8つのプロジェクトを同時に進行しています。」と坂口氏。これは思い切ったことをしたものである。「すべて順序に進めています。タイで弊社が使うシステムは全てセタ社に開発してもらう予定です。」(坂口氏)。
いままでオフショア開発の経験がなかったにも関わらず成功した秘訣はどこにあるのだろう。その秘訣が日本人BSEの存在だと坂口氏は言う。
ガリバーのオフショア開発プロジェクトの体制には、セタの社員である日本人BSE(アカウントSE:コンサルSE)がいるそうだ。「当社専任のアカウントSEの存在は、成功に至る1つの重要なカギと言えます。極端にいうと、ベトナム人BSEやエンジニアはプログラミングの能力は非常に高いですが、(日本人が)ビジネスシステムとして使うための設計、運用を配慮した作り方など、まだ日本人のようにできないのが実情です」。やはり、お互いが相互理解し合っているとは言っても多少の考え方の違いはあるわけだ。
「全体設計ができてオフショア開発にも精通した日本人のBSEが、調整役としてプロジェクトに存在することで、日本国内におけるシステム開発と全く変わらない状態になることを私達は実感しました」(坂口氏)。ちょっとした違いを汲み取って、修正を加える日本人BSEの存在がオフショア開発成功の秘訣であるというわけだ。
■オフショア開発だからこそ重要な「見える化」
昨今、「オフショア開発だからこそ“見える化”が必要」とよくいわれている。特に作業を指示するときは、ビジュアル的な説明があればプロジェクトの進行が順調に進められるそうだ。言葉だけでなく、どういうことなのかがわかる、見てわかるビジュアルがあることで指示する側、される側で同じ指示内容を共有することが可能になる。
指示の「見える化」の方法について「当社の場合は、プロジェクトのスタート時に必ず日本人のエンジニアがオフショア開発現場に行き、絵や図で説明していました。」と坂口氏。
「もちろん、現地の プロジェクト・マネージャー(ベトナム人BSE)と開発エンジニアのIT技術の能力が高かったのも、成功した大きな要因です」(坂口氏)。セタの専任のエンジニアはベトナムのエリート大学から卒業した人が多く、高い技術力を持っている。そして彼らは新しいことに興味津々だという点も成功につながったポイントだろう。
「開発プロジェクトに関わったエンジニアの皆さんが、まだ若く、新しい技術を勉強することに強い興味を示してくれ、そのおかげもあってスキルアップするペースが非常に速かった。最初に感じた不安が安心に変わりました」と坂口氏。
オフショア開発におけるラボ型の開発契約では専任メンバーのスキルアップがコストパフォーマンスにおける重要な要素になると言えそうだ。
■オフショア開発初心者へのアドバイス
ベトナムには大規模(1000人以上)から中規模( 100~500人)や小規模( 15~100人)とオフショア開発を行う会社が多く存在している。どういった基準で開発会社を選ぶといいのだろう。
「会社の規模に応じて採用基準が変わり、全体の技術力も異なるそうです。なので、開発案件の特徴によってオフショア開発会社を選び分けるべきです。たとえば、規模が大きいけど技術レベルは高くなくても問題のないプロジェクトには大規模ベンダーを使ったほうが良いです。難しいシステムで高い品質を求める場合は、エンジニアの採用を厳しく行っている中規模のベンダーをすすめます。なお、徹底的にコストダウンをしたい場合は、小規模のベンダーが適当だと思います。」と坂口氏。案件ごとに分けたほうがいいわけだ。
■やはり大事なのはコミュニケーション!
ごく当たり前のことだが、コミュニケーションはオフショア開発で一番重視しなければならないことだと坂口氏。とはいえ、実際にどうすればいいか。簡単ではなく、たくさんの正解がある。このコミュニケーション方法については「オープンでフランク(心の距離を縮める様な)なコミュニケーションの場を作ることに力を入れるべきだと思います。」と坂口氏は言う。
週一の定例会議以外、いつでも気になっていることを言えるため「Yammer」という社内SNSを利用して常に対話を行ったという。
坂口氏によると「ベトナム人エンジニアと日本人エンジニアとの違いは、日本人のエンジニアは開発からテストまで担当しますが、ベトナム人エンジニアは開発のみを担当します。実は開発エンジニアとテスターがいて、それぞれ特化した仕事をするのはベトナムに限らず世界中では一般的だそうです」。なるほどそれ専用のプロが、開発とテストにおいてプロの仕事をしてくれるから、最終的に良いものができるというわけだ。
「当社のプロジェクトでは、開発段階でバグの数が多いように見えるのですが、 QA(品質管理)メンバーの高い能力によって、より良い最終プロダクツを生み出すことができました。言い方をかえると、オフショア開発ベンダーを選ぶ際には、プログラマーの能力だけでなくテスターの能力も検討が必要です」(坂口氏)。
最後に坂口氏はオフショア開発体制にいる日本人 BSEの役割を再度強調した。「先ほども言いましたが日本とベトナムの間に日本人 BSEが存在するとコミュニケーションがうまくとれるだけではなく、システムの全体設計も担当してもらえるので、結果的に、日本人が求める品質が実現できます。だから、この体制はおススメです。」
今回、オフショア開発ベンダーを選定するには、エンジニアの能力だけでなく QAテスターの能力に加え、オフショア開発体制に日本人BSEが存在するかの有無も重要な要素だと分かってもらえたと思う。
さて次回は、日系オフショア開発会社としてはベトナム・ハノイで最大級規模のオフショア開発会社のエンジニアに、ベトナムでのオフショア開発の裏の裏までいろいろ教えてもらう。
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