- 2014-10-2
- ITビジネス, 電子書籍
- 三十五回, 個人出版, 林 拓也, 連載, 電子出版, 電子書籍
- 個人でも可能な電子出版 誰でもできる電子出版 第三十五回 はコメントを受け付けていません
■はじめに
今回は雑記というか、目にとまったトピックを2つご紹介しようと思います。
1つはITmedia eBook USERさんに掲載された、西尾泰三氏の記事「明治図書出版はなぜDRMフリーの電子書籍販売に踏み切れたのか――担当者に聞いてみた」について。
もうひとつは、最近久しぶりのアップグレードが行われた無料のEPUB制作アプリ「Sigil」についてです。
■eBook USERさんの記事について
当電子書籍ブログでは、スタート当初からDRMについてある程度関心を持っていました。
メジャーなところではハリー・ポッターシリーズがDRMフリーでリリースされたことには何度か触れてきましたし、前々回の記事でもDRMについて触れました。
そんな折、たまたまeBook USERさんの西尾泰三氏の記事「明治図書出版はなぜDRMフリーの電子書籍販売に踏み切れたのか――担当者に聞いてみた」を拝読したところ、取材先の明治図書出版さんが教育書、学習教材を扱っているということで、さらに興味を持ちました。
私自身、電子教科書や電子教材の開発に関わったこともあり、教育分野にも関心があったためです。
記事の内容については原文を読んでいただくということで割愛しますが、取材対象となった明治図書出版さんの電子書籍販売は、概ね以下のような特徴があります。
1.DRMフリー(弱いDRM)のPDFやEPUBの書籍を扱っている
2.自社の直販である
1については「ユーザーの使い勝手を損なってしまってはいけない」というのが一番大きかったとのこと。
この辺りについては当ブログでも何度か触れたことがありますが、読者寄りの目線からだったので、ビジネスの場で取り組んでいらっしゃる方のご意見を伺えたことにある種の新鮮さを感じました。
ちなみに明治図書出版さんでは、過去10年間PDFベースの電子雑誌を、購入者情報(氏名、団体名)を表示する「弱いDRM」で販売してきたそうです。
「弱いDRM」というのは、技術的に違法コピーなどの不正利用を防止するものではなく、心理的に抑止することを期待するものです。一般的にDRMフリーという場合、技術的な防止措置を行っていないことを指すので、「弱いDRM」が設定してあってもDRMフリーと呼んで差し支えありません。
その実績の中で、不正利用に関する問題は特に発生しなかったことも、EPUB化した書籍(雑誌ではなく)のDRMフリー販売に踏み切る後押しになったとのことです。
読者目線では利便性にばかり目が行きがちで、著者や出版社の懸念などは知識として理解しているだけであることを痛感させられます。
最初のPDFベースの電子雑誌をDRMフリーにした経緯なども触れ方はシンプルですが、その分わかりやすいインタビューになっています。
2についても興味深いものがあります。
大手電子書店での販売も検討されたそうですが、DRM云々の他に自社書籍の「使われ方」と「電子書店のカテゴリ」に問題を感じられて直販にされたというお話。教育書の特徴的な部分が垣間見えて、個人的に引き込まれました。
そして最後に目を引いたのは、ブラウザビューワーの導入に言及しているところで、フリーのブラウザビューワー「BiB/i」(ビビ)が取り上げられているところです。
ここは個人的な話で恐縮なのですが、私が「BiB/i」の開発者さんと知り合いなので、ちょっとうれしかったというだけなのですが。
■Sigilについて
Sigilについても何度か当ブログで触れたことがあります。
直近では、現状日本の電子書籍市場はEPUB3が事実上の標準に近い状態なので、EPUB2しか制作できないSigilは使うべきでない、という趣旨の記事を書いたことがあります。
今回、Sigilは約11か月ぶりに更新(0.7.4→0.8.0)されましたが「EPUB2しか制作できないので使うべきでない」という状況は変わっていません。まず、この点を強調しておきます。
使うべきでないSigilの話をなぜしたかというと、まず1つは「久しぶりに更新されたけど、EPUB3非対応だから使わないように!」というお知らせのため、もう1つは「開発は終了していなかったので、いつかEPUB3に対応するかも」という期待の共有(?)のためです。
Sigilは2012年には7回更新されました。昨年の2013年には少しペースが落ちたものの5回更新されました。
しかし、昨年10月27日に0.7.3から0.7.4に更新したのを最後にしばらく更新がありませんでした。内心、開発終了してしまったのかな?とも思っていたのですが、約11か月を経た2014年の9月28日に0.8.0がリリースされたと言うワケです。
以前から、無料のEPUB3制作ツールで、使い勝手のよい手頃なものが無いか探しているのですが、なかなか見つかりません。
Webサービスでは「でんでんコンバーター」のような優れたものがありますが、できればアプリで何かあるとうれしいのです。
Sigilは無料で、使い勝手も悪くなく、Mac版、Win版、Linux版があるので、EPUB3に対応してくれれば、有力なツールに位置づけられると考えています。
ということで、Sigilはまだ開発が終わっていないようなので、EPUB3への対応を期待しましょう。
■最後に
DRMフリーのEPUB電子書籍を販売する書店は、日本でも少しずつ登場してきています。
古くは技術評論社さんの直販サイト「Gihyo Digital Publishing」があります。
EPUB3仕様がリリースして間もなくサイトを立ち上げ、独自のブラウザビューワーもいち早く搭載した先駆者的なストアと言えるでしょう。
最近では、やはりeBook USERさんの記事で見かけた「たびのたね」もDRMフリーのEPUB書籍を販売しているとのことです。
昨今、サービスを終了する電子書店も少なくありませんが、DRMフリーで頑張っている書店には頑張っていただきたいと思っています。
■著者プロフィール
林 拓也(はやし たくや)
テクニカルライター/トレーニングインストラクター/オーサリングエンジニア
Twitter:@HapHands
Facebook:https://www.facebook.com/takuya.hayashi
■ITライフハック
■ITライフハック Twitter
■ITライフハック Facebook