- 2026-10-20
- ITビジネス
- 生成AIは「回答」から「行動」へ!IPA津田通隆氏に聞く、AIエージェントの未来 はコメントを受け付けていません
2026年10月13日、幕張メッセで開催された「CEATEC 2026」において、「エージェンティックAIとデータ基盤の未来」をテーマとするセッションが開催された。生成AIの進化によって、企業の業務や経営はどのように変わるのか。また、AI時代の競争力を左右する「データスペース」とは何か。セッション終了後、情報処理推進機構(IPA) Open Data Spaces 最高設計責任者の津田通隆氏に個別インタビューを実施した。AIエージェントの可能性からデータ主権、中小企業の活用方法、5年後の働き方まで、10の質問を通じて話を聞いた。
■生成AIは「回答」から「行動」へ!企業の競争力を左右するデータとコンテキスト
── 生成AIからエージェンティックAIへの進化によって、企業の業務や経営はどのように変わるのでしょうか?
津田氏:これまでの生成AIは、基本的に「回答エンジン」だったと思います。それが今後は「アクションエンジン」に変わっていきます。
従来は、人間がビジネスの環境を把握し、ソフトウェアを操作して、何らかのアクションを起こしていました。
しかし、エージェンティックAIでは、AIが人間の代理としてビジネス環境を把握し、必要なアクションまで実行するようになります。
そうなると、企業の業務そのものが変わりますし、経営のあり方も変わってきます。
例えば、これまで人事部門は人間の従業員を管理してきましたが、今後はAIエージェントも組織の一員として管理する必要が出てくるでしょう。
つまり、AIを単なる業務支援ツールとして導入するのではなく、AIを中心とした組織へと企業そのものが変わっていくと考えています。
── 今回のセッションでは「AI時代の次の競争軸はデータ」とされています。AIモデルの性能以上に、企業が保有するデータの価値が重要になるのでしょうか?
津田氏:まず、AIモデルの性能自体は非常に重要です。そのため、企業は一つのAIモデルだけを利用するのではなく、複数のモデルを適切に使い分けられるようにする必要があります。
そのうえで重要になるのが、企業固有のデータと「コンテキスト」です。
AIモデルはインターネット上の大量の情報を学習していますが、個々の企業の業務内容や、ビジネス特有の事情まで理解しているわけではありません。
例えば、企業には業務固有のデータがあります。また、そのデータが何を意味するのか、どのようなルールがあり、何を実行してよいのかという判断基準もあります。
こうした情報がコンテキストです。
今後、ソフトウェアやAIモデル自体がコモディティ化していくと、企業に残る独自の競争力は何なのかという問題が出てきます。
それが、企業の持つデータとコンテキストだと考えています。
ただし、データを何でもAIに渡せばよいわけではありません。
現場の業務を理解している人が責任を持ち、AIに必要なデータやコンテキストを適切に提供できる環境を整えることが重要です。
■既存システムの置き換えは不要!Open Data Spacesが実現するデータ連携
── Open Data Spacesは、従来のデータレイクやデータウェアハウスと何が根本的に異なるのでしょうか。また、企業は既存のデータ基盤を置き換える必要がありますか?
津田氏:既存のデータ基盤を置き換える必要はありません。
Open Data Spacesは、基本的にはプロトコルです。つまり、分散しているデータを、そのままの状態で連携させるための共通の通信手段です。
現在、企業にはさまざまなデータ基盤があります。データウェアハウスやデータレイクハウス、さらに既存の業務システムなど、多様な仕組みが存在しています。
Open Data Spacesは、これらを置き換えるものではありません。
それぞれのシステムの上位に「コンテキストレイヤー」を設け、分散しているシステムを連携させるための仕組みです。
そのため、既存のシステムを壊したり、すべてのデータを一つの場所へ集約したりする必要はありません。
データレイクハウスとOpen Data Spacesは、そもそも役割が異なります。
企業がこれまで投資してきたIT資産を生かしながら、異なるシステムや組織のデータを連携できることが特徴です。
■データ主権をどう守る?AIエージェントの安全性と責任の所在
── Open Data Spacesでは、企業がデータ主権を維持しながら、安全に他社と連携できるとされています。具体的にどのような仕組みで安全性を確保するのでしょうか?
津田氏:重要なのは、アクセスコントロールと、データをどのように利用できるかという利用条件の制御です。
例えば、企業間でデータを共有する場合、秘密保持契約(NDA)などによって、情報の利用範囲や条件が定められています。この場合、契約内容とシステム上のアクセス制御を結び付けることが重要です。法務部門が契約内容を確認し、その条件に従ってデータへのアクセスを制御できるようにする。契約上の条件を、システムの認可エンジンに反映させることが手段として考えられます。
また、誰に、どのデータを、どのようなコンテキストとともに提供するのかという選択権を、データを管理する「ドメインオーナー」に持たせます。
ドメインオーナーが、自分の管理するデータの提供先や利用条件を判断できるようにするわけです。
こうした仕組みによって、データを保有する企業や組織が、自ら利用条件を決定できる環境を整えることを目指しています。
── AIエージェントが複数企業のデータを参照し、自律的に意思決定する場合、誤った判断や不適切なデータ利用が発生した際の責任は、どこにあると考えるべきでしょうか?
津田氏:Open Data Spacesの基本的な考え方では、責任主体はドメインオーナーです。
そのドメインオーナーが責任を持てるようにするためのアーキテクチャが、Open Data Spacesの重要な設計思想です。
AIに何でも自由に実行させるのではなく、実行してよいことと、してはいけないことを明確にする必要があります。
そのために、AIの行動を制限する「ガードレール」を設けます。
また、重要になるのが「オントロジー」という考え方です。
企業の業務には、一定の手順や判断基準があります。それを明確なグラフ構造として表現し、AIにもその業務フローに従って行動させるわけです。
例えば、人間が業務を行う場合には、決められた手順に従って判断し、処理します。AIにも同じように業務を実行させることを考えています。
そして、その業務フローを設計するのは、業務を理解している人間です。
そのため、アーキテクチャ上は、最終的にドメインオーナーが責任を持つという考え方になります。
■「日本対米国」ではない!国際連携が切り拓く新たなデータビジネス
── 米国や中国がAI開発で先行するなか、日本がOpen Data Spacesによって世界をリードできる可能性はあるのでしょうか。また、日本ならではの強みは何でしょうか?
津田氏:そもそも、日本と米国を対立する構図で考えること自体が適切ではないと思っています。
AIやデータマネジメントの最先端を走っているのは、明らかに米国です。
現在のAIやデータ基盤の技術も、長年にわたる研究開発の積み重ねによって生まれています。
技術は何もないところから突然生まれるわけではありません。
そのため、日本だけで海外と完全に切り離して技術開発を進めようという発想は、適切ではないと考えています。
Open Data Spacesについても、米国の企業も巻き込みながら、オープンソースの取り組みとして進めています。
重要なのは、世界の先端技術を取り込みながら、そのエコシステムを日本国内に形成できるかどうかです。
もちろん、日本企業にもユーザー企業として重要な役割があります。
海外の最先端技術を活用し、日本企業が実際の業務の中で価値を生み出していくことが必要です。
単純に「日本対米国」という構図で競争を考えるのではなく、世界の企業と協力しながら、より優れた仕組みをつくっていくことが重要だと思います。
── 企業が自社データを囲い込むのではなく、他社と連携することで、どのような新しいビジネスや収益モデルが生まれると考えていますか?
津田氏:具体的なビジネスモデルについては、ユースケースによって異なります。
Open Data Spacesが提供しようとしているのは、特定の業界向けのアプリケーションではなく、さまざまな領域で利用できる水平的な仕組みです。
今後、AIエージェントが高度化すると、自分が属している業務領域だけでなく、他の部門や他社が持つデータやコンテキストを参照する必要性が高まります。
そのとき、重要なのは、AIが必要な情報に適切にアクセスできることです。
ただし、すべてのデータに自由にアクセスできるようにするわけではありません。
ドメインオーナーが責任を持ち、アクセスコントロールによって適切なガードレールを設ける必要があります。
AIが利用を許可されたデータを仮想的に統合して参照できれば、回答の精度を高めたり、アクションの信頼性を向上させたりすることが期待できます。
Open Data Spacesは、そうした機能を提供するミドルウェアです。
その上で、どのようなアプリケーションを開発し、どのようなビジネスを展開するかは、利用する企業やサービス提供者が考えることになります。
■中小企業にも大きなチャンス!Open Data Spacesの導入と普及への道筋
── 大企業だけでなく、中小企業にもOpen Data Spacesを活用するメリットはありますか。また、IT人材や予算が限られる中小企業は、何から始めればよいのでしょうか?
津田氏:もちろん、中小企業にもメリットはあります。
まず、中小企業の皆さんにお伝えしたいのは、自分たちでOpen Data Spacesのシステムを構築する必要はないということです。
Open Data Spacesはミドルウェアなので、基本的には対応したアプリケーションを利用することが入口になります。
例えば、製造業などの業界向けアプリケーションや、会計などの業務アプリケーションがあります。
こうしたアプリケーションの裏側でOpen Data Spacesが動いている状態を想定しています。
つまり、利用者がOpen Data Spacesを意識しなくても、普段使っているアプリケーションを通じて、その機能を活用できるようになるということです。
また、中小企業には大企業とは異なる強みがあります。
中小企業の場合、経営層と現場の距離が近く、経営者自身が業務の内容やデータの意味をよく理解している場合が多いと思います。
Open Data Spacesでは、ドメインオーナーが責任を持つことが重要なので、その点では中小企業のほうが有利な場合もあります。
もしかすると、大企業よりも中小企業のほうが早くOpen Data Spacesを活用できる可能性もあると思っています。
既存のシステムをすべて置き換える必要はありません。今使っているアプリケーションを生かしながら導入していくことが重要です。
── Open Data Spacesの現在の開発・実装状況について教えてください。また、今後の普及に向けて、どのような技術的・制度的課題がありますか?
津田氏:2026年4月に、Open Data Spacesのアーキテクチャの設計思想をまとめた文書や、プロトコル、オープンソースソフトウェア(OSS)などをGitHubやGitBookで公開しました。そのため、技術仕様やソフトウェアは、すでに利用できる状態になっています。
また、IPAでは「ODS Data and Agentic AI Meetup(ODAI Meetup)」というコミュニティイベントを月に1回開催しています。
国内外のユーザー企業やサービスプロバイダーの皆さんに参加していただき、技術や活用方法について情報交換を進めています。
今後については、技術的・制度的な課題よりも、むしろサービスを誰が提供するのかという問題が重要だと考えています。
例えば、Open Data Spacesをマネージドサービスとして提供する事業者が必要になります。
日本国内のサービスプロバイダーやスタートアップが提供してもよいですし、既存のデータ基盤サービスと組み合わせて提供する形でもよいと思います。
重要なのは、企業が実際に利用できるサービスとして展開されることです。
そうしたサービス提供者を含めたエコシステムを形成していくことが、今後のIPAの重要な役割になると考えています。
■5年後、企業の中心はAIに!人間の働き方はどう変わるのか
── 今後5年から10年で、エージェンティックAIとOpen Data Spacesの普及によって、日本の産業構造や私たちの働き方はどのように変化すると予測していますか?
津田氏:10年後については、正直なところ予測が難しいですね。AIの進化が非常に速いので、そこまで先のことはわかりません。ただ、5年程度の将来であれば、先進的な企業ではエージェンティックAIが広く導入されている状態になると考えています。
企業の働き方についても、これまでのように人間を中心として業務を進めるのではなく、AIが業務の中核を担うようになるでしょう。
そのなかで、人間は必要な場面で介入する役割へと変わっていくと思います。
これは「Human-in-the-Loop(ヒューマン・イン・ザ・ループ)」と呼ばれる考え方にもつながります。
さらに先を考えると、企業がどこまでAIに業務を任せられるかということが重要になってきます。
米国の先端的なAI企業やデータ基盤企業では、人間がほとんど介入しなくてもAIが業務を実行できる状態を目指しています。
そのような環境では、人間は物事を理解することや意思決定することに集中するようになります。
また、人間にしかできない作業にも価値が残るでしょう。
それ以外の業務については、AIエージェントが自律的に実行するようになっていくと考えています。
Open Data Spacesは、そうした企業活動をデータ基盤の側面から支える役割を担うことになります。
■AI時代の企業競争力を左右するのは「データとコンテキスト」
今回のインタビューを通じて明らかになったのは、エージェンティックAIの進化が、単なる業務効率化ではなく、企業の組織や経営のあり方そのものを変える可能性があるということだ。
特に印象的だったのは、津田氏が繰り返し強調した「データとコンテキスト」の重要性だ。
AIモデルが高度化し、誰もが高性能なAIを利用できるようになったとき、企業の競争力を生み出すのは、独自に蓄積してきたデータや業務知識になる。
また、Open Data Spacesは既存システムを置き換えるものではなく、企業や組織がデータの主権を維持しながら連携するための共通基盤だ。
中小企業にとっても、自前で大規模なシステムを開発する必要がない点は魅力的だ。対応するアプリケーションが普及すれば、企業規模にかかわらず、データ連携による新たな価値創出に参加できる可能性がある。
一方で、AIエージェントが自律的に行動する時代には、データの利用権限や業務の責任範囲を明確にすることが欠かせない。
津田氏が描く5年後の企業では、AIが業務の中核を担い、人間は理解や意思決定、そして人間にしかできない仕事へと役割を移していく。
生成AIが「回答する技術」から「行動する技術」へと進化するなかで、企業にはAIの導入だけでなく、データ基盤と組織そのものを見直すことが求められそうだ。
■「Open Data Spaces」公式サイト
■CEATEC 2026 公式サイト
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