- 2026-8-13
- ITビジネス
- AIの成否を分けるのは「業務のコンテキスト」、Celonisが示すエンタープライズAI実用化への道 はコメントを受け付けていません

プロセスインテリジェンスのグローバルリーダーであるCelonis株式会社は2026年7月28日、年次ユーザーカンファレンス「Process Intelligence Day Tokyo 2026」をANAインターコンチネンタルホテル東京で開催した。当日実施されたメディアラウンドテーブルでは、Celonis共同創業者兼共同CEOのバスティアン・ノミナヘル氏と、Celonis株式会社 バリューエンジニアリング統括本部 第二本部 本部長の太田陸登氏が登壇。Celonisの最新製品戦略と、Microsoft、Databricks、Oracle、Coupaなどとのパートナーエコシステムについて説明した。
■AIに不足しているのはモデル性能ではなく「業務のコンテキスト」
太田氏が最初に強調したのは、エンタープライズAIが成果を生み出すためには、企業固有の「業務のコンテキスト」が不可欠だという点である。
現在の大規模言語モデルは、一般的な知識をもとに幅広い質問へ回答できる。一方、企業が求めているのは、資料作成やメール作成といった個人業務の効率化だけではない。運転資金の改善や在庫リスクの低減、需給変動への対応など、経営に直結する課題を解決するAIである。
太田氏は、需要が急増した商品について「再発注すべきか」とAIへ尋ねる例を紹介した。業務のコンテキストを持たないAIであれば、「在庫切れを防ぐために供給量や安全在庫を増やす」といった一般的な回答にとどまる。
これに対して、企業固有の販売実績や在庫状況、地域、品目、輸送手段、実際のリードタイムなどを理解したAIであれば、特定地域の特定品目に在庫リスクが集中していることを特定できる。さらに、ERP上では10日と設定されていても、過去の実績では鉄道輸送に20日かかっていると判断し、顧客への納期を守るために航空輸送へ切り替えるといった具体的な行動まで提案できる。
つまり、企業に必要なのは一般論を返す「ジェネラリストAI」ではなく、業務の実態を理解して次の行動を提示する「スペシャリストAI」なのである。
■過去・現在・未来を結ぶ「Celonis Context Model」
企業の経営に直結する課題に対してCelonisが打ち出したのが、「Celonis Context Model(CCM)」である。
CCMは、企業の業務を動的かつリアルタイムに再現するデジタルツインだ。複数のシステムやアプリケーション、デバイスなどからデータを取得し、企業の業務が実際にどのような流れで動いているのかを、AIが理解できる形に変換する。
その中核を構成するのは、主に「INTELLIGENCE(インテリジェンス)」「BUSINESS KNOWLEDGE(ビジネスナレッジ)」「PROCESS DATA(プロセスデータ)」の3要素である。
プロセスデータからは、受注、購買、生産、請求といった業務の流れや、途中で発生した例外、遅延、手戻りを把握する。ビジネスナレッジには、KPI、承認フロー、担当者の役割、業務上の目標、制約、ガードレールなどが含まれる。さらにインテリジェンスを加えることで、根本原因の分析だけでなく、予測やシミュレーション、推奨アクションの提示まで可能にする。
CelonisはCCMの発表に合わせ、AIによるディシジョンインテリジェンスを手掛けるIkigai Labsを買収した。同社は、MIT教授のデバブラット・シャー氏らが設立した企業で、表形式や時系列の構造化データを扱う「Large Graphical Model(LGM)」を強みとしている。
文章などの非構造化データを得意とするLLMに対し、LGMは在庫、取引履歴、需要変動といった企業データの予測やシミュレーションに適している。Celonisは両者を組み合わせることで、何が起きたのかという「過去」、今何が起きているのかという「現在」に加え、今後何が起こり得るのか、次に何をすべきかという「未来」までAIへ提供する。
■人、システム、AIエージェントを一つのプロセスで動かす
Celonisの役割は、業務を可視化して終わるものではない。分析結果をもとに、あるべきプロセスを設計し、改善策を実際の業務で動かし、その効果を継続的に測定するところまでを対象としている。
太田氏は、従来のRPAによる単一作業の自動化から、人、既存システム、RPA、AIエージェントを束ねる「オーケストレーション」へと、自動化の対象が広がっていると説明した。
例えば、定型処理はシステムやAIへ任せながら、価格変更や承認など重要な判断には人間を介在させる。AIの推奨結果をそのまま実行するのではなく、業務上の制約やガードレールに基づいて人が判断する「ヒューマン・イン・ザ・ループ」を組み込める点が特徴だ。
さらに、AIエージェントが実行した業務そのものもマイニングの対象にする。エージェントの判断や行動が正しかったか、期待した成果につながったかを記録・評価し、次の改善へ反映する仕組みである。AIを導入しただけで終わらせず、投資効果をKPIで追跡できるようにする狙いがある。
外部のAIエージェントに業務のコンテキストを渡す仕組みとして、Model Context Protocol(MCP)にも対応する。これにより、利用者は自然言語で業務上の逸脱やボトルネック、根本原因、期待できる改善効果を確認できる。これまで専門家に依存しがちだったプロセス分析を、幅広い業務担当者へ開放するものだ。
■MicrosoftやOracleなどと築くオープンエコシステム
ノミナヘル氏は、Celonisの価値を最大化するうえで、オープンなパートナーエコシステムが重要だと力説した。
Celonisは特定のERPやクラウド、AIモデルへの置き換えを求めるのではなく、企業が保有する既存のシステムやデータ、AIエージェントを生かしながら、その間をつなぐ中立的なコンテキストレイヤーを目指している。
Microsoftとの連携では、Microsoft Fabricとのゼロコピー連携により、OneLake内のデータを移動・複製せずにCelonisで利用できる。Microsoft Agent 365との統合では、CelonisがAIエージェントの業務上のパフォーマンスを分析し、Agent 365がガバナンスやポリシーを適用する循環を構築する。
Databricksとは、Delta Sharingを利用した双方向のゼロコピー連携を実現した。Databricksに保存されたデータへCelonisの業務コンテキストを加え、その情報をAIエージェントへ渡す一方、エージェントの実行結果を再びプロセス改善へ活用する。
Oracleとの協業では、Celonis Process Intelligence PlatformをOracle Cloud Infrastructure(OCI)上に展開可能とした。Oracle Fusion Cloud Applicationsを含む業務プロセスを分析・最適化し、レガシーシステムからクラウドERPへの移行リスク低減や、AIワークフローの高度化を支援する。
またCoupaとは、調達・支出管理にCelonisのプロセスインテリジェンスを組み込み、Coupa Navi AIエージェントへ業務コンテキストを提供する。購買ルールから外れた取引の検出や請求書処理の自動化、早期支払い割引の獲得などにつなげる構想だ。
■AIを「導入する」段階から「成果を出す」段階へ
企業のAI活用では、より高性能なモデルや新しいAIエージェントの導入に注目が集まりやすい。しかし、AIが企業固有の業務を理解していなければ、もっともらしい一般論を提示するだけで、現場の具体的な行動にはつながらない。
今回のメディアラウンドテーブルから見えてきたのは、エンタープライズAIの競争力を左右するのは、モデルの性能だけではなく、企業が持つ業務の文脈をどこまで正確かつ継続的にAIへ渡せるかという点である。
Celonisが目指すのは、AIを単体で賢くすることではない。人、AIエージェント、システム、取引先を一つのプロセスとして結び、その動きを分析しながら改善を続ける仕組みの構築だ。AIの実証実験を具体的なP&Lへの貢献に変えられるか。その成否を分ける鍵が「業務のコンテキスト」なのである。
■Celonis 公式サイト
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代表取締役・ITライフハック代表
ITライフハック編集長・ライター
ITライフハック副編集長・ライター
