デジタル時代に「現地」はどう再定義されるのか?兵庫県競馬が挑む“体験価値”の再設計

  • 2026-4-3
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地方競馬の売上は過去最高を更新し続けている。しかし、その内実は大きく変化している。現在、売上の9割以上がインターネット投票で、競馬場への来場者数は減少を続けている。「売れているのに人が来ない」という構造的な矛盾が、いま競馬業界に横たわっているのだ。こうした状況に対し、兵庫県競馬組合は、運営する園田競馬場と姫路競馬場の全国的な認知向上とイメージ刷新を目的に、ブランド戦略を開始。その第一弾として、両競馬場を総称する名称を「HUK(兵庫アーバン競馬)」と定めた。PRアンバサダーには、人気お笑いコンビ「かまいたち」を起用し、発表会では「か馬いたち」への改名を宣言するといったユーモラスな演出も披露。話題性を起点にしながら、リアル体験の再定義を狙う戦略がいよいよ始動出した。

■「売れているのに人が来ない」という矛盾

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地方競馬の売上は拡大を続け、2024年度には自治体への配分金が220億円を超えるなど、地域財源としての存在感も高まっている。一方で、その成長の中身は大きく変質している。現在、投票の90.8%はインターネット経由で行われており、競馬場への来場者数はピーク時の約8分の1、約270万人まで減少している。

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兵庫県競馬組合 事務局長の野口吉浩氏は、この現状について、「インターネット投票が9割を超える中で、競馬場への来場者は減少を続けている。来場者数の増加が、これからの地方競馬の成長機会になると考えている」と語る。

この問題は兵庫県に限ったものではなく、地方競馬全体に共通する構造的課題だ。売上は伸びているものの、リアルな場としての競馬場の価値は相対的に低下している。このギャップをどう埋めるか。それが次の成長フェーズにおける核心となる。

■「HUK」が目指す都市型競馬という再定義

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こうした課題に対し、兵庫県競馬組合が打ち出したのが、「HUK(兵庫アーバン競馬)」という新ブランドである。園田競馬場を「阪神アーバン競馬」、姫路競馬場を「姫路アーバン競馬」と再定義し、全体を都市型レジャーとして再構築する。

野口氏は今回の戦略について、「洗練された都市型レジャーとしてのイメージを確立し、新たな層を取り込むブランディング戦略を推進していきたい」と説明する。

背景には、競馬場の役割そのものを変える意図がある。単なる「賭けの場」ではなく、地域交流やエンターテインメントを提供する複合空間へと進化させることで、来場の必然性を再構築する狙いだ。

■“競馬を知らなくても来る理由”をどう作るか

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今回の発表会では、かまいたちがコンビ名を「か馬いたち」への改名を宣言する演出も行われ、会場の笑いを誘った。「もちろん言行一致、本当に改名するつもりでいる!事務所からの圧力がなければ(笑)」と断言した。

こうした遊び心のある仕掛け自体が、今回のブランド戦略の方向性を象徴している。つまり、競馬を“真面目に訴求する”だけでなく、エンタメとしての接点を増やし、心理的ハードルを下げる狙いだ。

競馬にこれまであまり馴染みがなかった層に対しても、「なんとなく面白そう」「一度行ってみたい」と思わせる導線を設計している。

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山内健司氏は、競馬の魅力について「最初は馬券を買うところから競馬の魅力に惹かれていったが、だんだん馬の血統や生い立ち、厩舎など、その馬にまつわる全てのことに興味が湧いてきて。ほんと、馬ってロマンがある」と語る。

さらに、競馬は単発の娯楽ではなく、時間をかけて楽しむコンテンツだと続ける。「馬が引退しても、それで終わりじゃない。その馬が親になって、子孫たちが競馬場を走る。その流れを見られるのがとても面白い」

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一方、濱家隆一氏はリアル体験の価値を強調する。「山内の影響で、僕も競馬ファンになって実感したのは、実際に現地で見ると、馬が馬場を駆け抜ける時の、あの体に響くような蹄の音の迫力が全然違う!競馬はやっぱり“現地”で見ることに醍醐味があると知った」

また、競馬未経験者への間口についても「競馬を知らなくても、イルミネーションもキレイだし、武豊(たけ・ゆたか)騎手が食べたタコ天もあるし、ちょっとデートで行こうかなっていう入り口としてちょうどいい」と語る。

実際、競馬場にはイルミネーション(前年度比2倍)やご当地グルメ、卓球台などのスポーツ施設なども整備され、その印象は大きく変わりつつある。かまいたちは、2人声を揃えて「競馬場っていうより、これはまるでアミューズメントの複合施設!」と絶賛する。

これらの発言が示すのは、今回の戦略が競馬ファンの拡大だけでなく、「競馬を目的にしない来場」を設計している点にある。

■2030年は100周年!競馬場は“体験拠点”に進化する

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兵庫県競馬は、2030年に園田競馬場の開設100周年を迎える。この節目に向け、施設の再整備や体験価値の強化が検討されている。

野口氏は今後の方向性について「将来的には体験型のエンターテインメントの場を目指していきたい」と語り、さらに「兵庫県競馬は関西・西日本から発信する地方競馬の新たなモデルケースになりたい」と展望を示す。

すでにナイター競馬時のイルミネーション拡張など、空間演出の強化も進められており、競馬場は“心地よく楽しく滞在する場所”として大きく進化し始めている。

ここで重要なのは、競馬というコンテンツ自体を変えるのではなく、その周辺体験を再設計している点だ。投票はオンラインに任せ、リアルは体験に特化する。この分業モデルをどこまで洗練できるかが鍵となる。

■リアルは「効率の外側」にある──感情経済が人を動かす

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デジタルがあらゆる行動を最適化した結果、私たちは「行かなくてもいい理由」を手に入れた。馬券はスマホで買える。情報はリアルタイムで届く。合理性だけで判断すれば、競馬場に行く必要はない。

それでも、人は動く。しかも、理屈ではなく感情で。いま消費の意思決定は、「効率」や「価格」だけでは説明できない領域に入りつつある。高くても、遠くても、手間がかかっても、“行きたい”と思った場所に人は集まる。いわば、感情が価値を決める「感情経済」だ。

競馬場という空間は、そのど真ん中にある。地面を叩く蹄の音、視界を横切るスピード、歓声が重なるあの瞬間。勝ち負けを超えて、身体ごと巻き込まれる感覚がある。そこには、数値化できない“高揚”がある。

兵庫県競馬が進める「HUK」は、この感情の領域に正面から向き合った戦略だ。競馬を知らなくてもいい。詳しくなくてもいい。ただ、その場に行けば、何かが起きる──そう思わせる設計に振り切っている。

脇谷 美佳子




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