メディアセッションの冒頭で登壇した同社の代表取締役社長武田隆氏は、1996年の創業から20周年となる本年に、旧社名のエイベック研究所からクオンへと社名を変更したことを紹介。同社は学生ベンチャーのホームページ作成事業を起業したのがスタートだという。その後、1998年くらいになると、さまざまなITベンチャーが次々と立ち上がっていき、「数の中に埋もれてしまった・・・」と武田氏。「悔しさもあり失うものもなかったので、インターネットの本質に突っ込んだ物を作って華々しく散ろうと開発に着手したのが『Beach』というコミュニケーションツール」(武田氏)。
クオン代表取締役社長 武田隆氏
そのうちにmixiやFacebookを初めとしたSNSが急速に立ち上がっていき、「ソーシャルメディアでは作れない企業のオウンドメディアでコアなファン組織を作っていくという同社のビジネスがやりやすくなった」と武田氏。そのうちにBeachの開発予算がWeb構築費だけではまかなえなくなったので投資を呼び込もうと株式会社化を図ったのだという。
ただし「ビジネスモデルがしっかりと立てられていなかったのが弱点だった」とのこと。「このままでは早晩、群雄割拠するITベンチャーの中でこれといった特徴が出せずにコモディティ化の波に呑まれてしまうだろう」と考え、企業と顧客の関係構築支援をビジネスモデルに定めた。
そしてそれから、「企業のコミュニティを活性化するのに10年くらいかかった」と武田氏は語る。「しかし『ソシオグラム』で解析すると、企業とユーザーは繋がっているが、そのユーザー同士はなかなか繋がらない」(武田氏)。なお同社が構築しているオウンドメディアは、登録制でありながら匿名性を維持するという手法で作られている。運営側は個人情報を把握し、匿名性ゆえの炎上などを抑制しつつ、ユーザー同士では匿名性によってコミュニケーションを取りやすくしているというわけだ。
同社の解析手法である「ソシオグラム」。企業とユーザーのつながりが扇形で表されている
■コミュニティは完成したがどうやって収益を上げるか?
コミュニティの活性化のあとは収益性を確保しなければならない。しかし「お金にしようとするとホットなネットワークがすぐに壊れてしまう」と武田氏。このためコミュニティを活性化させたあとに貯まっていく、ユーザー一人一人のコミュニティの行動履歴などの大量のデータについてデータサイエンスを施すことで、「どのくらいの人がファンになったのか」、「ファンになるといくらくらい買うのか?」という分析を行うことにしたという。
「ファンになった方々はどのような購買プロセスを取ったのか、どれくらい購入したのか、共通した行動パターンはあるのかを分析し、その結果に基づいて、職人の勘で行っていたコミュニティの運営を、データサイエンスのファクトを元にPDCA(Plan Do Check Act)サイクルを回して活性化させる」(武田氏)。なおこうした分析方法は、武田氏によると、世界的に見ても日本が数年進んでいるそうだ。
これまでは消費者の声を聞くという行為は、調査者がアンケートやインタビューで消費者の記憶をたどって聞くことが一般的だった。「そこでの問題は、記憶が曖昧だということと、深く聞こうとすればするほど、数が限られること。そして調査者の力量にばらつきがあるので、大量に調査しようとすると変化が起きてしまう」(武田氏)。
■様々な問題点を解決に導く「コミュニティデータマイニング」
コミュニティデータマイニングは、こうした問題点を解決してくれる。まず、一人ひとりの行動をすべて記録し、購買が上がった消費者グループを特定して、彼らが過去、どのようなイベントに参加していたのか、どのような他者の発言に「いいね」を送っていたのかを特定するのだ。「この技術を利用して集められた消費者の声は、購買に影響を与える声ということになる」(武田氏)。これを商品開発や広告、店頭POPに使うといったことが始まっているそうだ。
ユーザーの購買に影響を与えた声(VOI)を特定する手法
■新しい広告システム「AAA」とは?
そしてこの手法を使った新しい広告システムが「AAA」(Auto-learning、Aumenation 、Ad-cycle)だ。まずコミュニティの中からVOIを抽出する。その際に、VOIに影響を受けたコミュニティ属性も特定する。次に、この顧客属性に類似した行動パターンを持っている消費者を特定する。そしてVOI向けのみに作られた広告ページを作り、そこに影響を受けた人に類似した消費者へ、インターネット広告を使って市場全体に告知する。そうすると、影響を受けて訪れた人が見るサイトは、過去に自分と同じ属性の人が、これを見て購買が上がった声に基づいて作られている広告ページということになるという。
この広告を見た人の一部がコミュニティに参加すると、コミュニティでもまた活動が起こる。そうするとVOIの精度と多様度が上がるとともに、広告ページの効率が上がっていく。そしてより多くの人がコミュニティに参加するという循環が始まる。「AAAは、サイクルを回せば回すほど論値的には広告効率が上がり、各社のファンベースが拡張する」(武田氏)。
AAAによる循環サイクル
「コミュニティの活性が起こると、コミュニティに参加している消費者の購買の粗利でコミュニティの運営費がまかなえるようになる」と武田氏。そしてコミュニティ自体が、マーケティングのエコシステムとなっていく。「コミュニティからボトムアップで上がってくる消費者の声にデータサイエンスを通すことで、事実の枝葉が広がっていく。この中に実るのが、ユーザーにより生み出された“果実”となる。これまではトップダウンで仮説も報告も流していたという考えだったが、この仕組みの新しいところは、すべてボトムアップ」(武田氏)。
ただしこの欠点は、「果実がファンコミュニティだけで完結してしまうということ」(武田氏)。このため「果実をマス市場全体に開いていくために、広告代理店とアライアンスを組んでいくのが次のフェーズとなっていく」と武田氏は語った。
ボトムアップで広がっていくユーザーコミュニティ
■電通とのコラボレーションで「コミュラボ」をスタート
そしてスタートしたサービスが「コミュラボ」だ。「消費者と深く繋がるための消費者コミュニティを担当し、そこでファンを育成してライフタイムバリューを上げ、ファン化のメカニズムをデータサイエンスで明らかにするのがクオンの役割。そこで生まれた熱を、コミュニティを越えて社会現象としていくために、広告とコミュニティの連動は不可欠」と武田氏。そこで電通とのタッグを組むことになったそうだ。
電通とのコラボレーションで開始した「コミュラボ」
「従来型の調査手法では消費者の行動の深い洞察までできないが、コミュニティではバイアスのかからない深いインサイトまで獲得できるし、ロイヤリティの向上においても効果的」と、電通のプロデューサーである河野紳一氏は語る。コミュニティの力を外に出していくために、クオンと電通がコラボしてコミュラボが作られた。
電通 デジタルマーケティングセンター CRMマーケティング部 河野紳一氏
具体的には、電通がクライアント企業の課題解決のための戦略を、消費者コミュニティを中心に設定し、クオンが消費者コミュニティから得られる声を抽出。そして電通がその声を元に、これまで持っているデータと照らし合わせてコミュニケーションの施策を設計し、実施していくことになるとのことだ。
コミュラボで取られていく施策
創業20周年を迎え、これまでも、そしてこれからも進化し続けるインターネットの世界でさらなる成長を目指すクオン。新サービスの「コミュラボ」の今後に注目したい。
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