ここ数日は、従業員給与のベースアップ(ベア)をめぐる報道で名前を見かけることが多い、自動車各社。もちろん、各社の業績が好調なことが背景だ。とくに、2013年度は不振であった日産自動車<7201>の好業績が目立っている。
理由は、過去も存在感を示してきた中国事業が回復してきたことが大きく、2012年後半の反日デモの影響を克服した。2013年の中国での販売台数は、約126万6000台(前年比17%増)。中国合弁会社(東風汽車集団との折半)の2014年3月期営業利益が、好業績に貢献する見通しだ。セダン「シルフィ」などが人気だが、この勢いで、3月末には多目的スポーツ車(SUV)の新型「エクストレイル」を発売する予定。これに備え、大連市に新工場を稼働させた。
■欧州市場でも攻勢
他国市場でも意欲的だ。インドには現地開発、生産による「ダットサン」の第1弾「GO」を投入、約65万円以下という低価格とトップクラスの高燃費性能を追求することで、以降の新興国市場開拓のモデルとすることをもくろむ。有望市場として成長を見せるフィリピンにも、2000年の撤退以来再参入し、セダンの「アルティマ」と「シルフィ」の販売を開始する。
欧州市場(ロシアを含む)でも、ソブリン(国家債務)危機による不況が底入れしたと判断、2016年度までに新型車14車種を発売する計画だ。このため、英国工場に約430億円を投資、スペインの3工場にも約615億円を投資する。仏ルノーとの協業も進め、小型車「マイクラ(日本車名マーチ)」の次期モデルをルノーのフランス工場で生産する。市場拡大が見込まれるロシアでは、インドと同様の「ダットサン」ブランド(生産はルノーと共同買収したロシア自動車最大手アフトワズの工場を活用)と、富裕層向けの「インフィニティ」の小型車「Q30」を発売する。現在、日産の欧州市場のシェアは3.4%(11位)だが、これを上積みする計画。
これらを保証するため、今後3年に商品開発などへの投資を強化、新興国市場の開拓を中心に計約2900億円を投資する。商品面では新型車の発売ペースを早めてシェア拡大を図るが、一方で、SUVを中心に、ルノーと共通の複合部品(モジュール)を組み合わせて生産する手法を拡大させる。2018年までに全生産量の7割に採用する計画で、部品調達コストを25〜30%ダウンさせ、競争力を強化できると見込んでいる。また一部報道によると、2017末をメドに、ダイムラーとも小型SUVの共同生産を検討している。
■野心的な中期計画
日産の中期計画は、2016年度を目標とする「パワー88」。「世界シェア8%」と「営業利益率8%」という「2つの8」をめざすという計画だ。現在、営業利益率は5%以下だけに、これは非常に意欲的で野心的なものといえる。
ただ、ともすると「シェア重視」と受け取られかねない状況を修正、「利益優先」のスタンスを再確認している。これを実現できるかどうかは、米国市場で販売奨励金(実質上の値引き販売)が膨らむことを防ぐことだ。ブランド力の高い製品を開発、投入することがそのカギとなるだろう。
また、日産はモーターなど中核的な技術を他社にライセンスするという核心的なビジネスモデルも実践しつつある。業界ではほとんどなかったことだが、他製品への転用を認めることで投資資金を回収するとともに、フィードバックにより性能向上のためのヒントを得るなどの効果を狙っている。
「ゴーン革命」以降の日産は、改革で業界の耳目をひいてきた。今後は、ビジネスモデルでも革新を見せてくれそうだ。
自動車株が大相場となった昨年も他社に比べれば大きく出遅れた同社株。しかし先行する中国市場の回復で、今年は期待が持てそうだ。時価近辺の安値を拾っておきたい。
(小沼正則)
※投資の判断、売買は自己責任でお願いいたします。
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