■はじめに
前回はEPUB 3.0.1のドラフト(草案)に関する内容を扱いました。電子出版に関する環境もかなり整備されてきたと言えます。これを機に、一度情報を整理する意味も含めて電子書籍周りの事項についてのQ & Aを用意しました。
Q & Aは電子書籍を利用するユーザーとしてのQ & Aである「利用編」と電子書籍による個人出版を考えている人向けの「制作編」に分けてあります。十分なものではありませんが、ご参考にしていただけると幸いです。
■利用編
Q:電子書籍を読むにはどんな機材が必要なの?
A:電子書籍ストアごとに違いがあるので、利用するストアで確認する必要があります。一般的には①専用デバイス、②スマホ(タブレット)+専用アプリというパターンです。専用デバイスの例としてはAmazonのKindle Paperwhiteシリーズ/Findle Fireシリーズ、Sony Reader StoreのSony Readerシリーズ、楽天KoboのKobo glo/auraなどがあります。
スマホを利用する場合は、iOSとAndroidの両方で専用アプリがリリースされている場合と一方でしかリリースされていない場合があるので注意が必要です。
Q:あるストアの電子書籍を専用デバイスとスマホとか、スマホとタブレットといったように複数のデバイスで利用することはできるの?
A:これも利用するストアで確認していただくのが確実ですが、ストアの多くは電子書籍を再購入することなく複数台のデバイスにダウンロードすることができます。今まで利用していたデバイスから新しいデバイスに乗り換える場合には、使わなくなるデバイスの利用登録を解除するのが一般的です。
PCからストアサイトにログインして、管理画面で登録デバイスの解除を行えるストアも増えていますが、使わなくなるデバイスから利用解除手続きを行うのがスムーズです。
Q:色々な電子書籍ストアがあるけれど、どのストアで買ってもまとめて管理できるの?
A:あるストアで購入した電子書籍は、基本的にそのストアに対応した閲覧環境で管理することになります。そのため、いくつもの電子書籍ストアから購入すると、いくつものアプリやデバイスで管理することになります。
紀伊國屋Kinoppyで購入した電子書籍はSony Readerで読むことができますが、このようなケースは稀なものとなっています。
Q:ということは、メインで使っているストアAで売っていない電子書籍をストアBで購入し、その後ストアAで発売されたときにストアAの閲覧環境にまとめたいと思ったら、その電子書籍をストアAで買いなおさないといけないの?
A:残念ながらその通りです。
Q:あるストアから電子書籍を購入したら、電子書籍のファイルがダウンロードされたんだけどどうやって読めばいいの?
A:前述のように、専用デバイスや専用アプリがリリースされている場合、そのデバイスやアプリから電子書籍を購入・ダウンロードできることが多く、電子書籍のファイルを扱うことはあまりありません。
ファイルがダウンロードされる場合、そのストア専用の閲覧環境が無く、その電子書籍を閲覧できるいずれかの電子書籍リーダーを使う必要があります。基本的にそのストアに説明があるので、それを確認するのがよいでしょう。一般的に利用される電子書籍の形式としては、EPUB形式、PDF形式、MOBI形式などがあります。
EPUB形式なら本ブログで紹介してきたように、ReadiumやiBooksなどで閲覧できます。PDF形式は一般的によく利用されるので特に説明は必要ないでしょう。MOBI形式はKindle用の形式で、Kindleの専用デバイスやアプリで閲覧できます。
Q:iBooksやKindleはストアで購入した電子書籍を閲覧するための環境でしょ?ストア以外で入手した電子書籍ファイルも読むことができるの?
A:はい。専用デバイスやアプリの中には、ストア以外で入手した電子書籍ファイルを読めるものがあります。iBooksやKindleもそのような閲覧環境です。EPUBを読めるアプリはiBooksの他にも色々あるので、自分の好みにあったものを探してみるのもよいでしょう。
■制作編
Q:電子書籍を個人出版する場合、どの形式がいいの?
A:iBookstoreやKindleストアで販売したいのであればEPUB形式がよいと思います。iBookstoreは現状(2013年12月現在)ではEPUB形式でしか入稿できません。Kindleストア(Kindleダイレクト・パブリッシング:KDP)ではEPB形式の他、WordファイルやHTMLファイルでも入稿できますが、Kindleの電子書籍の形式はEPUBに類似しているので、EPUBで入稿するのがスムーズです。つまり、EPUBで制作しておけばiBookstoreやKindleストアで販売するのに都合がよいということです。
Q:EPUB形式の電子書籍を作成するにはどうすればいいの?
A:現在日本で流通しているEPUBはEPUB 3.0仕様に準拠したものが主流です。EPUB 3.0準拠のEPUBを制作するには、次のような方法があります。
①でんでんコンバーターを利用する
②ワープロソフトから書き出す
③EPUB用オーサリングツールを使う
①のでんでんコンバーターについては、本ブログでも紹介したことがあるので詳細は割愛させていただきます。でんでんコンバーターは初心者に使いやすく、ハンドコーディングのスキルのある方には奥深く利用できる優れたサービスです。
②のワープロソフトについては、Windows向けの「一太郎 玄」やMac向けの「Pages」などがEPUB 3.0形式の書き出しをサポートしています。
③のEPUBオーサリングツールは、Windows向けの「FUSEe」(フュージー)があります。FUSEeはWISIWYGのエディタが搭載されていてワープロ的にコンテンツ編集ができるほか、ソースコードの直接編集もできるので、細かいところまでコンテンツを制御できます。また、書籍情報もパネルを使って細かく指定できるという大きなメリットがあります。コンテンツ部分を構成するHTMLファイルについては、別のアプリで制作したファイルを読み込んで利用することもでき、使い勝手に優れています。
現実的な方法としては以上のようなものとなりますが、これらはいずれもEPUB 3.0のリフロー方式の電子書籍を制作することを想定しています。
Q:EPUBではリフロー方式以外にどんな方式があるの?
A:EPUB 3.0では固定レイアウト方式の電子書籍も制作できます。両方を簡単に説明すると、リフロー方式は、表示領域(画面サイズ)に合わせてテキストが流し込まれます。複雑なレイアウトはできませんが、文字サイズを変更することができテキスト中心のコンテンツに向いています。
固定レイアウト方式はコンテンツの縦横サイズを決めた上で文字サイズや画像のレイアウトを固定して配置します。文字サイズを変更できないので、文字を大きく表示したい場合にはコンテンツ全体を拡大表示することになります。複雑なレイアウトが可能ですが、スマホなど画面サイズが小さいデバイスでは閲覧しにくくなります。
Q:固定レイアウト方式の電子書籍を作成するにはどうすればいいの?
A:固定レイアウト方式として書籍情報を定義するのはFUSEeで行えますが、コンテンツそのものの設定はHTMLやCSSをソースコードレベルで扱うことがほぼ必須となっています。文字も含めて各ページを1枚の画像として用意するようなやり方もあり、その場合制作難易度は下がりますが、読者がテキスト検索できず不便を感じることがあるかもしれません。
固定レイアウト方式のEPUBを制作できる手頃なツールもまだ見当たりません。固定レイアウトに限らずリフロー方式でも言えることですが、EPUB仕様に適合した電子書籍を作成する場合、HTMLやCSSの基本的な知識を持っている方が何かと都合がよいというのが現実です。
Q:作成したEPUBファイルがEPUB仕様に適合しているかどうかはどうやって調べるの?
A:「EpubCheck」というオープンソースのJavaプログラムを使います。ただ、このEpubCheckはコマンドラインで操作する必要があり、やや使い勝手の悪い面があります。このEpubCheckをエンジンに使ってGUIを追加したアプリである「pagina EPUB-Checker」を使うとEPUBファイルをドラッグ&ドロップするだけで簡単にチェックすることができます。なおこのpagina EPUB-CheckerはフリーウェアでWindows版、Mac版両方あるので興味のある方は一度試してみるとよいでしょう。
■最後に
私事で恐縮ですが、前回告知させていただいたiBooks Authorのハンズオンセミナーが無事終了しました。参加してくださった方には、出版系の方以外に教育関係の方やWeb系のトップクリエイターの方もいらっしゃいました。
興味を持っていらっしゃる方の層は、思ったより広そうに感じています。iBooks AuthorコンテンツがiBookstoreで販売できるようになればかなりブレイクするのではないかと思います。
さて、早いもので次回が2013年最後の記事になります。ネタはまだ未定ですが(笑)、気合入れて頑張ります!
■著者プロフィール
林 拓也(はやし たくや)
テクニカルライター/トレーニングインストラクター/オーサリングエンジニア
Twitter:@HapHands
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