- 2014-12-17
- ITビジネス
- レポート, 土砂災害, 安全行動支援推進協議会, 第一回セミナー
- 最新技術の活用で被害を最小限に!「土砂災害から命を守る安全行動支援推進協議会 第一回セミナー」 はコメントを受け付けていません
国内第一線で活躍する研究者達で組織する「土砂災害から命を守る安全行動支援推進協議会」(以下、協議会)は、つい先日、立正大学品川キャンパスにおいて、中央省庁ならびに全国の自治体向けに、台風やそれに近い嵐、ゲリラ豪雨などによる土砂災害被害を最小限に抑えるための各種対策を発信する「第一回セミナー」を開催した。
近年、集中的豪雨の増加と、それに伴う土砂災害は、従来の想定を超える場所、そして想定を大幅に超える規模で発生している。その結果として貴重な人命が数多く失われる事態が特にここ何年かで繰り返されている。
こうした現状に対して、2014年9月、現場での具体的対応を改善することを目的に、京都大学防災研究所千木良雅弘氏、東京大学先端科学技術研究センター鈴木誠氏らをはじめとした国内でICT(情報通信技術)や各種技術を活用した土砂災害研究において第一線で活躍する研究者たちにより、同協議会が設立された。今回は、記念すべき第一回セミナーが開催されたのでその様子をお伝えしよう。
■何よりも命を守る支援行動を!~同協議会の主意~
同セミナーは、まず協議会事務局の主意説明から始まった。世界的な気象変動の影響ともいわれる集中的豪雨やいわゆるゲリラ豪雨の増加による土砂災害は、従来見られなかった現象であり、そのため従来の想定を大きく超える場所や規模で、危険な災害をもたらすようになってきた。その結果として尊い人命が数多く失われる事態が繰り返し発生するようになってしまっている現状がある。
このような現状に対して、先述したように何とか少しでも現場における具体的対応を改善したいと、様々な分野の専門家が“今何ができるか?”を総動員し、命を守る支援行動へとつなげたい。そのための1つの手段・枠組みとして協議会が設立されたわけだ。
この協議会はまずはボランティアベースでメンバーが集まり、できることから対策を発信していく。そして活動の範囲を限定せずメンバーの専門的知識や技術がより広範に情報発信がなされることをサポートする。
具体的な活動としては、セミナー、ホームページなどからの「“土砂災害対策”情報発信事業」、「自治体などにおける具体的対策の展開支援事業」、「実証事業などの検討」、「研究内容の実用化・高度化事業」となる。こうした取り組みは限定せず、メンバーの知識、技術を幅広く世の中に発信するという。
■雨による斜面崩壊の発生場所予測
次に京都大学防災研究所地盤災害研究部門教授千木良雅弘(ちぎら まさひろ)氏の「雨による斜面崩壊の発生場所予測」と題した発表があった。雨が降り過ぎて地中に蓄えておける水量を超えてしまった結果、山の斜面が崩壊する土砂崩れや土石流といった自然災害のきっかけになるのがこうした斜面崩壊だ。8月に広島県で発生し死者・行方不明者77名を出したあのいまわしい災害が記憶に新しい。千木良教授によると実は、こうした崩壊には、以下のように表層崩壊と深層崩壊の2種類があるという。
・表層崩壊
斜面表層の風化物や堆積物の崩壊雨や地震によって多数発生することが多い。ただ1か所あたりの被害は小さい。
・深層崩壊
斜面深部の地質構造に起因する。崩壊の発生頻度は低いが、発生すると被害は甚大、ハード対策で避けることは難しい。
さらに千木良教授によると、それぞれに下記のような癖があるという。
・表層崩壊は群発する→土石流に移り変わることが多い
・深層崩壊の発生数は少ないが、発生すると急激かつ広域的に被害 (天然ダムの形成と決壊)
・表層崩壊の発生場所を特定することは難しいが、個々の土砂量は少ない→ハードで対策可能
・深層崩壊は巨大で急激なため,ハードで対策することは難しい→発生場所は多分予測可能
さらに「日本は地質の博物館」と言えるほど、雨による土砂災害も、起こる場所や起こり方が異なるという。例えば古い堆積岩は深層崩壊、花崗岩は群発する表層崩壊になる。そして地質を調べて初めて深層崩壊タイプか表層崩壊タイプかが分かるというわけだ。
なお崩壊発生場所の予測としては、「広い範囲の中から危険斜面を探し出す」あるいは「危険な領域を探し出す」ことが重要とされる。さらに詳細な地質条件がわからなくても可能な方法であることが必要とされるという。
そうした予測に使われるのが下記である(記事の関係上、詳細説明は割愛)
・物理モデル(Physically based model)
・統計モデル(Statistical model)
・地質・地形的特徴(Geology-geomorphology)
予測とは異なるが、土石流が繰り返される地域では、大抵の場合、言い伝えが残されているそうだ。
また最新技術、たとえば、航空レーザー計測を活用すれば、少なくとも深層崩壊の発生候補箇所は見つけられる。ただし、危険度のランキング付けが必要となるそうだ。
最後に「土砂災害軽減のためには、多くの人が大地のことを良く知ることが必要。情報に頼る前に、単純なことがらを理解するだけで,心の準備が大きく変わる。」と千木良教授。
同セミナーは、4時間にも渡る長丁場だったが、参加者にとっては自然災害に対する知識を得るよい機会となった。今後も協議会では、まずは有志の研究者らが集まり、活動の範囲を限定せずメンバーの専門的知識や技術がより広範に発信されることをサポートしていくとしている。
こうした試みは、まだ始まったばかりだ。しかし、誰かが何とかしなければ、被害は一向になくなることはないだろう。また、国や地方自治体で災害対策に関わる人たちは、こうしたセミナーに参加し、知識を得て今後を考えた正しい防災対策に臨んでいただきたい。