バブル崩壊以後、全体として引き下げ、または低迷していた勤労者の賃金が、今年は上がりそうな雰囲気になっている。
経営側を代表する経団連は1月15日、2014年春の労使交渉の指針で、賃金水準を底上げするベースアップ(ベア)を認める方針を示した。これは6年ぶりのこと。しかも、安倍首相は経営者、労働組合代表などを交えた政労使会議でじきじきに「賃上げ」を求めるなど、以前の自民党なら決してしなかったであろう態度まで見せた。
この背景は何だろうか。また、本当に賃金は上がるのだろうか。
■「デフレ脱却」が至上命題
安倍首相が「賃上げ」を求めたのは、「デフレ脱却」のために進めているアベノミクスの成功の大きなカギが、今春の賃上げにかかっているからだ。
これまで、アベノミクスによる円安と株高、公共事業などの景気対策が、日本経済に明るさを取り戻させてきた。とはいえ、これは4月の消費税増税で「腰折れ」してしまう可能性がある。これはアベノミクスの失敗を意味し、支持率が下がって政権基盤が不安定になるし、2015年10月に予定されている消費税の再増税(10%)が不可能となり、「財政再建」を約束した国際公約にも反してしまう。
これを避けるため、安倍首相は中小企業を含む経済界に賃上げを求めることで勤労者の所得を増やし、消費税増税による消費の冷え込みを最小限のものにとどめたいと考えているのである。
すべては「デフレ脱却のため」である。
■実態は「ボーナス対応」が大部分か
肝心の経済界では、トヨタ自動車などはベースアップ(ベア、賃金水準の底上げ)を認める方針である。ベアが上がると、毎月の賃金が上がり、次年以降の基準も上がることになる。
だが、ベアを上げると明言している企業は一部で、賃上げは肯定しても、多くはボーナスの増額となりそうだ。ボーナスは「賞与」であり、次年以降の基準に影響は与えない。企業にとっては手っ取り早く、かつ次年以降に「引きずらない」賃上げ方法なのである。それでも、大企業には全勤労者の約3割が働いており、賃上げは消費税増税の負の影響をいくらか打ち消す効果があるだろう。
ただ、企業の9割以上を占める中小企業では、ベアであれボーナスであれ、賃上げに応じるところは少なそうで、「大山鳴動して鼠(ねずみ)一匹」となりそうな雰囲気だ。
編集部は、賃上げの効果が思うほどでなければ、安倍政権は黒田・日銀総裁を促しての金融の再緩和と再度の景気対策を行う可能性が高いと推測する。6月頃に策定される「成長戦略」の第2弾にも影響を与えることになると思われる。3~4月の労使交渉には、例年以上に注目しておきたいところである。
(編集部)
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