- 2026-5-15
- ITビジネス
- AIは“もう一人の医師”になれるのか。生活者480人調査で見えた “不安”と“期待” はコメントを受け付けていません
ChatGPTをはじめとする生成AIの進化によって、「AI医療」は研究段階から実装フェーズへと入り始めている。スマートウォッチなどのウェアラブルデバイスから取得した健康データをAIが解析し、病気の兆候や体調変化を検知する。そんな未来は、少しずつ現実味を帯び始めている。
一方で、現実の医療現場では、“AIへの期待”と“実装の壁”の間に大きなギャップも存在する。AIによる健康相談を、人はどこまで信頼できるのか。医師はAIをどう受け止めているのか。そして、AIは本当に医師不足を救う存在になり得るのか。
2026年5月14日(木)、ヘルステック企業である株式会社テックドクターは、「AI医療とデータ活用の“期待と現実”」をテーマにラウンドテーブルを開催。
一般生活者480人を対象にした「AI健康相談・AI医療に対する意識調査」の最新レポートを初公開するとともに、順天堂大学医学部 総合診療科学講座教授/AIインキュベーションファーム センター長の矢野裕一朗氏と、テックドクター代表取締役CEOの湊和修氏が、AI医療の現在地と今後の課題、展望について意見を交わした。
■データで“調子”を良くする時代を目指すテックドクター
今回ラウンドテーブルを開催したテックドクターは、ウェアラブルデバイスから取得した日常健康データをAI解析し、医療・ヘルスケアへ活用するスタートアップだ。
睡眠や心拍、活動量、ストレス変化など、病院外にある日常の自分のデータを継続的に収集・分析し、疾患悪化や体調変化の兆候を捉える「デジタルバイオマーカー(dBM)」の開発を推進する国内唯一のプレーヤーだ。
「デジタルバイオマーカー」をわかりやすく言えば、スマートウォッチなどから取得した日常データを解析し、健康状態や疾患兆候を可視化する“新しい健康指標”だ。
すでに製薬企業など90社以上へ導入され、25以上の研究機関・大学とも連携。Googleの医療研究プログラムパートナーにもアジア圏で初めて採択されている。現在は約2万人規模の健康データを保有し、AIを活用した“予防医療”や“未病領域”の社会実装を目指す。
背景にあるのは、日本が抱える医療課題だ。高齢化による医療費増加、医師不足、慢性疾患管理。テックドクターは、通院時という「点」のデータだけでなく、病院へ来る前の日常という「線」のデータを活用することで、来院を効率化し、服薬期間や通院期間を短くし、「病院の負担軽減」「限られた医療資源の最適化」の実現、医療費の適正化につなげることを目指す。
■「60代でもAIが相談相手の2位」に──意識調査で見えたAI医療への期待
今回テックドクターが発表した意識調査では、生成AIを活用した健康相談・AI医療に対し、人々の意識変化が浮き彫りになった。
受診前にAIへ症状相談を行うことについて、「積極的に利用したい」「状況によっては利用したい」が全体で50.4%、AI利用経験者では72.5%(下図左)に達した。
特筆すべきはシニア層の変化だ。60歳以上のAI利用経験者において、健康不安時の相談先として「AI(21.7%)」が全体(9.2%)の倍以上に上昇し、医師に次ぐ2位にランクインした 。
これは、「高齢者はAIを使わない」という先入観を覆す結果であり、健康相談の勢力図が塗り替えられつつあることを示唆している。
次に、「AIをどの程度信頼するか」という設問では、全体の約4人に1人(25.2%)、AI利用経験者では31.7%が、「医師よりは信頼できないが、友人・家族よりは信頼できる」と回答。AIは“絶対的な専門家”ではないが、“身近な相談相手以上”という独自の立ち位置を獲得し始めている。
■AI医療への不安「誤判断・見落とし」が4割。解決の鍵は“言語化されない情報”
AI医療に対する不安も根強い。調査で最も多かった懸念は「誤った判断・見落とし」で、全体で40.2%(AI利用経験者では42.9%)にのぼった。
この不安の正体について、順天堂大学の矢野氏は生成AI特有の課題である「ハルシネーション(もっともらしい嘘)」の問題に加え、「入力情報のバイアス」という重要な視点を指摘した。
矢野氏は、「患者さん本人が『重大な病気かも』という強い不安を持って入力すると、AIの回答がその前提に引っ張られ、全く違う文脈の回答を出してしまう可能性がある」と述べる。つまりユーザー側の主観がAIの判断を狂わせるリスクも否めないという。
しかし医師の診察は、単なる“テキスト解析”ではない。医師は診察室に入ってきた瞬間の顔色や声のトーン、生活背景、さらには家族環境など、患者が言葉(プロンプト)にできていない「非言語情報」を総合して診断を下している。
矢野氏は、「患者さん本人の文脈を含めて診ることは、まだAIには難しい」と述べ、生成AIを医療現場で安全に活用するためには、AI技術の進化だけでなく、医師側のAIリテラシーや運用設計が不可欠になるとの見方を示した。
■日常の健康データでAIの信頼性が「高まる」と答えた人が全体の約5割、AI利用経験者では約7割に
「日常の健康データをもとにAI判断する場合、信頼性は高まると思うか?」という設問に対し、全体の半数以上(52.3%)は信頼性が高まると回答し、特にAI利用経験者(上図)では「大きく高まる」(11.7%)と「ある程度高まる」(55.4%)を合わせて約7割(67.1%)がポジティブな反応を示した。
ここで重要になるのがウェアラブルデバイスだ。睡眠や心拍、活動量といった“病院外”の日常データをAIが継続的に解析することで、単なる症状検索ではなく、「その人の普段の状態(ベースライン)」を踏まえた客観的な判断が可能になる。
「ウェアラブルデバイスの日常健康データが診療に活かされることについてどう思うか?」という設問では、AI利用経験者の67.9%(上図)が肯定的に回答した。日常の「線のデータ」を加えることで、AIへの信頼性が高まるという感覚が、生活者の間に着実に広がっていることがうかがえる。
これはテックドクターが推進する、「病院外データ×AI医療」の方向性とも合致する。人々が求めているのは「AIか医師か」という二択ではなく、まずAIで日常管理を行い、そのデータを携えて医師の診察を受けるという“AIと人間の協働型医療”なのだ。
■医療現場が本当に求める「AIの役割」
世間では「AIが医師を代替する」といった議論が注目されがちだが、現場のニーズはより現実的だ。現在、導入が進んでいるのはカルテ作成補助や診療記録要約といった事務負担軽減の領域だという。
矢野氏は、「AIが医師を代替するのではなく、医師が本来やるべき『患者と向き合う仕事』に集中できる環境を作ることが重要」と強調する。
■目指すは「医師向けA Iソリューション開発プラットフォーム」
テックドクターが目指すのは、医師が自分で自分専用のデータに基づくプログラム医療機器を作れるプラットフォームだ。いわば医師が自分独自のAIを育てていくというもの。
テックドクター代表の湊氏は、「健康・医療分野におけるAI活用の関心や受容は広がりつつある。その一方で、誤った判断・見落としに対する不安は依然として大きいことが調査から明らかになった。A Iが医療において信頼される存在になるには、判断精度や根拠に対する納得感が重要であることが改めて示された」と述べる。
現在はまだStep1「データの蓄積」の段階にすぎず、Step2「遠隔モニタリング」を行うには、既存の電子カルテとの連携が喫緊の課題である。将来的には、ウェアラブルとの質問回答と連携したデータをもとに、医師の指定した指標で対話が可能な医師独自のAIの実装を目指す。
今回の調査から見えたのは、生活者がAIを「身近な相談相手」として受け入れ始めているという事実だ。“人がどこまでAIを信頼し、どう使いこなすのか。AIはまだ“医師そのもの”にはなれない。
しかし、“最初に相談する相手”として、人々の日常へ入り始めているのは事実だ。AI医療の本当の変化は、診察室の中ではなく、「病院へ行く前」の生活の中から始まっているのかもしれない。
テクニカルライター 脇谷 美佳子
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代表取締役・ITライフハック代表
ITライフハック編集長・ライター
ITライフハック副編集長・ライター
