ソニーがサポートする実験的な対話プラットフォーム「trialog(トライアログ)」で小島秀夫監督を迎えて仕事の「クオリティとミッション」を語るトークセッションを開催

  • 2020-2-28
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異なる立場にいる三人がそれぞれ意見を交わし「本当に欲しい未来とは何か」を考えるための実験的な対話のプラットフォーム「trialog(トライアログ)」(trialog Partnered with Sony)。この9回目のトークイベントとして「trialog vol.9 『クオリティとミッション』」を開催した。

トークセッションは2部構成で行われたが、その第1部に世界的なゲームクリエイターである小島秀夫監督が登場。「QUALITY~クオリティはどこまで追求するのか~」をテーマにトークを繰り広げた。小島監督のほかに、blskwn publishersのコンテンツディレクター若林恵氏、エンハンス代表であり、ゲームクリエイターの水口徹哉氏が参加した。

■事務所を作るところから始めたゲーム制作
小島監督とは25年来の付き合いだという水口氏。水口氏について「ライバルとは考えたこともない。タイプが違うクリエイター」と語る小島監督。「小島監督の製作スタイルは「監督」という呼称にも集約されているが、自分のイメージを強く信じ、時間がかかっても確実に自分の思いを成し遂げていく」と水口氏。


エンハンス代表 ゲームクリエイターの水口徹哉氏


ゲーム業界はテクノロジーの進化とともに表現方法が変わっていった。昔は妄想と思われていたものが、いまでは現実になっていることも。小島監督の最新作である「デスストランディング」は人気を博しているが、これまでの制作スタイルと変わったことを聞かれて、「ゼロから作ったこと、事務所を借りて、インテリアをどうするか、壁紙はどうするかを考えながら、人を面接したり、銀行に行ったり、それはそれで新しかった」のだそう。

また本作については「俳優さんを使ったのが大きい」と小島監督。「今回は作りたいものを企画して進めていったのがよかった」。ハリウッドの俳優たち6人を使ってゲーム化しているため、モデリングには架空の人物はいない。「フォトリアルなゲームはみんなそう。誰かを元にしている。その人そのものだけでなく、いろいろな人の皮膚のデータや顔の造形を使っている。そうでないとリアルにならない」。またカニが登場するシーンがあるのだが、「スタッフにカニを飼っている人がいたので、それをスキャンした」のだとか。

■最高作も次の日には駄作に
ゲーム作りについて小島監督は、「僕はそもそも完璧主義者。作り上げたとしても、一晩たって見てみると嫌になる。昨日の時点での最高も、一晩おいたら嫌になる。これではゲーム製作が終わらない。妥協というか、スケジュールがあるからこそ、そこまでにできることを全力でやる。どこまでも作っていていいのならずーっと作っている。締切が来たので終わったと言うこと」と語る。「締切までにどこまでできるのかは見越さないといけない。デジタルなのでずーっといじれる。いじっているのが楽しいんです。完成しても、次の日にはどう感じるのか不安で遊べない」(小島監督)。


小島秀夫監督


ゲームは小説やドラマ、映画と比べて制約がない分、どこまでも作ることができる。「ビジュアルとサウンド、ゲーム性があるが、そのラインをどこに引くのか。そのバランスを考えないと。どういうものを作るという計画で決めるしかない。毎日スケジュールとバジェットを見て日々調整している。ゲームはテクノロジー依存なので、毎分、毎秒にいろんな事が起きる。それをその都度解決して、微調整して、その先に待っている完成のラインを、バランスを取って作っている」とも。「プラモデルは完成品がバラバラになっていて、それを組み立てればできあがるが、ゲームはそうではない。パーツをどう組み上げて完成するのかが大事」(小島監督)。

ゲーム製作はそうしたパーツの積み重ねでできているが、「おぼろげながらあったバラバラのものが、パズルのようにつながる瞬間がある。それがクソ気持ちいい」という。「デスストランディングでも何回もあった。でもこれがないというなら、制作をやめるべき」とも。

■教科書など何もなかった昔
小島監督がゲーム業界に入ったときはまだまだ草創期だったので、「ゲームの先生がいなかったから何をやってもよかった」のだとか。「『会社はものを教えるところではない』と先輩が何も教えてくれなかったが、よくよく聞いてみると、先輩も何も知らなかった(笑)」。ただしここまでゲーム業界が熟成してしまうと、制約も多くなってくる。

「映画は2時間、とかテレビは45分とか決まりがあったが、ゲームではそのようなものはなかった。しかしいまのゲームにはそれがある。ゲームオーバーがあって、復帰ポイントはここ、とか。昔はむちゃくちゃなゲームがあったが、いまは年寄りが作ったレールに乗って作っているのが多い。いまの人たちはゲームに触れて育ってきたので、その殻を破るのは難しい。ゲームジャンルはあったが、そのほかの制約は何もなかった。マーケティイングやセールスには『どの棚に置けばいいんだ』と怒られたけど」(小島監督)。

■「デスストランディング」は人のためになるゲーム
「デスストランディング」では、ネットワークでプレーヤー同士がつながっており、自分や他人が作った橋や道路を使うことが可能だ。そしてそれを作った人に「いいね」を送る機能もある。これについて小島監督は「自分の行動が結果的に人のためになる。最初から人のためにやっているわけではないことにミソがある。自分のためにはしごやロープをかけたのに、人の役に立つという体験ができる。いいねはスタッフから大反対された。しかしすべてがそこにつながるようなキャラクターであり、ストーリーなので、これがなければ作らない砲がよかった。そういうのりしろがないと面白くない。AからBにいくのに効率よくいくのがゲームだが、あのゲームはAからBに行くときの風景を楽しむというもの。これまでにあるものを作るんだったら僕の出番はない。引退」(小島監督)。

■書店で情報を収集する
小島監督は書店に行くのが好きなそうで、「本屋に行かなくてもネットで情報が集まるが、本屋では新しい情報が得られる。何百万冊会って、その中で面白いのは100冊程度。それを引けるかどうか。自分の勘と、出会う運命の下地をどれだけ作っているかが大事だ」と話す。「ネットは便利だけど、それに従って生きていくと損をする」(小島監督)。

またこれからの若者に必要な資質を聞かれ、「自分のセンス、自分を信じるしかない。AIが入ってくるので、何もしなくても幸せかもしれないが。いろいろなところにいって、世界中を見た方がいいと思う。日本人なんて、日本にいたときだけに感じる。海外だと何人か問われない」。また「新しいことは猛烈に反対される。でも自分の判断で決める。自信がないときはあるが、確固たるものがないと、モノを作れない。周りの人がネガティブに言ってくると自信をなくすが、そういう意味でもクリエイターは孤独だ。他人の意見を聞いてもいいが、決めるのは自分」(小島監督)。

■人の記憶に残るのがいい仕事
小島監督は「いい仕事」について「人の記憶に残ること、死んだあとも残ること」と語る。「あの人のひと言で人生が変わったという人になりたい。やりたいことをやって食べていければ最高。いい仕事かどうか評価されるのは後なので、そんなに焦らなくてもいい。画家なんて死んでから評価される人もいる。賛否両論は遅れt家売る。10年後の評価は全然違うと思う。いい体験は長く残る」。


blskwn publishers コンテンツディレクター 若林恵氏


このイベントに参加していたのは20代~30代の若者。小島監督が残した言葉は、1人1人の心に突き刺さったに違いない。すでに天命を知っているはずの筆者も、かなり共鳴できた。自分を信じて仕事を進める。それがクリエイティブには必要なことだと思い知らされた。読者の方の参考になればと思う。

trialog公式サイト

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