- 2026-8-17
- カルチャー
- ナノテクとスマート養蚕でシルクの可能性を再定義!「ながすな繭」が描く未来【IVS2026】 はコメントを受け付けていません

国内最大規模のスタートアップカンファレンス「IVS2026」の「Startup Market」に、日本の伝統素材であるシルクに新たな価値を生み出そうとする企業が出展した。京都府京丹後市に本社を置く、ながすな繭株式会社だ。
同社は、シルクタンパク質の研究開発や素材製造に取り組み、シルクナノファイバーをはじめとする新素材を、化粧品、医療、食品、工業などの分野へ展開しようとしている。さらに、人工飼料やAI、ロボティクスを活用した養蚕の効率化にも取り組んでいる。
IVS2026のブースで担当者に話を聞くと、そこには衣料品だけにとどまらない「素材としてのシルク」の大きな可能性が見えてきた。
■繭の構造を生かす「シルクナノファイバー」
ブースでまず目を引いたのが、白い繭とともに展示されていた「シルクナノファイバー」だ。


蚕が吐き出すシルク糸は一見すると1本の糸だが、その内部には、さらに細かな繊維構造が存在する。ながすな繭では、このシルクの構造を微細化し、ナノファイバーとして利用する技術を開発している。
担当者によると、ナノファイバーをパウダー状にしたものに多量の水を含ませると、溶液ではなく「分散液」となり、クリームのような状態になるという。
「イメージとしては、裂けるチーズを細かく裂いて、ファイバーにしていくような感じです」
担当者はこのように説明した。
同社の公式情報によると、シルクナノファイバーは、シルク特有のフィブリル構造を生かした素材で、高い吸湿性や水分保持性を備えている。乾燥させることで、フィルム状に成形することも可能だ。
ブースでは、クリーム状の分散液やパウダーに加え、シルク素材を使ったフェイスマスクやヘアケア製品なども展示されていた。

■髪を覆う「コーティング」という発想
シルクナノファイバーの用途として、現在、特に活用が進んでいるのがヘアケア分野だという。
担当者は、ブースに掲示されたダメージを受けた毛髪表面の拡大画像を示しながら、シルクナノファイバーが髪の表面をコーティングする特性について説明した。
「シルク素材には、表面をコーティングして膜を作るような特徴があります」
髪そのものを元の状態へ修復するという意味ではなく、髪の表面をシルク素材で覆うことで、手触りなどを整える用途として、化粧品メーカーのヘアケア製品などに利用されているという。
ブースには、「nanoSILK SHAMPOO」と記された製品をはじめ、ヘアケア製品や仕上げ用のパウダーなども並べられていた。

また、パウダーとして使用した場合には吸水性や吸油性を発揮し、ほかの素材と混ざりやすい点も特徴だという。
■シルク100%のフェイスマスクも展示
会場では、シルク素材から作られた白いシート状の素材も展示されていた。
ながすな繭では、シルクスポンジ技術を応用したフェイスマスクやアイパッチなども開発している。同社の公式情報によると、こうした素材は、肌への密着性や吸水性を特徴としている。
シルクは、フィブロインを主成分とするタンパク質素材だ。ながすな繭では、シルクを繊維として利用するだけでなく、パウダー、スポンジ、フィルム、成形材料など、さまざまな形態へ加工する技術の開発を進めている。
担当者は、次のように展望を語った。
「いろいろな分野に展開できると思っています。現在は化粧品のお客様が多いですが、医療や食品、工業製品にも使えるのではないかと考えています」
■食品やヘルスケア分野でも研究
ながすな繭が可能性を模索しているのは、化粧品分野だけではない。
担当者によると、シルク素材が持つ吸油性を生かした、食品・ヘルスケア分野での研究も行われている。
例えば、シルク素材を摂取した際、消化管内の脂質とどのように関わるかといった可能性について、検証を進めているという。
また、食品に混ぜた際の物性にも特徴がある。担当者は、次のように説明した。
「スープに入れると、とろっとした感じになります」
さらに、腸内細菌との関係についても大学と共同研究を進めており、取材では名古屋大学との取り組みについて言及があった。
これらは、現在も研究・検証段階にある用途であり、シルク素材の新たな可能性を探る取り組みの一つだ。
■医療材料やプラスチックとの複合化へ
医療分野も、ながすな繭が力を入れている研究領域の一つだ。
同社は、シルクフィブロインから作ったスポンジを、医療材料として活用する研究を進めている。シルクは古くから縫合糸として利用されてきた実績があり、現在では、創傷被覆材や再生医療などへの応用研究も世界各地で行われている。

さらに同社では、セルロースやプラスチックなど、異なる素材とシルクを組み合わせた「複合化シルク」の研究も進めている。
ブースでも、担当者はシルクと樹脂を組み合わせた試作品を示しながら、次のように語った。
「シルク100%だけでなく、プラスチックなどと組み合わせることもできます。強度などはまだ研究途中ですが、いろいろなものが作れる可能性があります」
石油由来素材の代替や、従来素材に新たな機能を付加するバイオ素材としての活用も視野に入る。

■約221万戸から113戸へ——急減する国内養蚕農家
こうしたシルク素材の研究開発と並行して、ながすな繭が取り組んでいるのが、養蚕そのものの革新だ。
日本の養蚕業は、かつて巨大な産業だった。
1929年には国内の養蚕農家が約221万戸に達していたが、その後は化学繊維の普及や海外産生糸との価格競争、担い手の高齢化などを背景に減少を続けている。
2024年の国内養蚕農家数は134戸であり、2025年には113戸まで減少した。
100年足らずの間に、約221万戸あった養蚕農家が、100戸余りにまで減少したことになる。
■人工飼料で季節に縛られない養蚕へ
従来の養蚕では、蚕の餌となる桑の生育時期によって、生産が大きく左右される。
農林水産省によると、日本では5月から10月ごろに蚕を飼育し、飼育する時期によって「春繭」「夏繭」「初秋繭」「晩秋繭」などに分けられる。
こうした季節による制約を解消するため、ながすな繭では独自の人工飼料を開発したという。
担当者は、次のように説明する。
「自社独自で人工飼料を開発して、1カ月に1回程度収穫できる仕組みを作っています」
桑の生育時期に依存しない人工飼料と飼育環境を整えることで、年間を通じた安定的な養蚕の実現を目指している。

■AIとカメラで蚕を管理、ロボットが移動
興味深いのが、AIやロボティクスを組み合わせた養蚕システムだ。
担当者によると、カメラなどを使って蚕の状態を確認し、1頭ずつ成長や重量を管理するという。
そして、蚕が繭を作り始めるタイミングを判定すると、別の場所へ移動させる作業をロボットで自動化する仕組みを開発している。
従来、養蚕は人の経験と膨大な手作業によって支えられてきた産業だ。
人工飼料、センシング、AI、ロボティクスを組み合わせることで、飼育管理の効率化や省人化を図り、持続可能な生産体制へ転換しようとしている。
シルクの新素材を開発するだけでなく、その原料となる繭の生産方法そのものまで変えようとしている点が、ながすな繭の取り組みの大きな特徴だ。
■伝統素材を「新素材」として再定義する
取材中、シルクナノファイバーの話を聞きながら筆者が思い出したのが、写真フィルムで培った技術を化粧品などへ展開した企業の事例だ。
写真フィルムの需要が縮小するなかでも、長年蓄積してきた材料技術やナノテクノロジーを別分野に応用することで、新たな市場を生み出した企業がある。
シルクにも、同様の可能性があるのかもしれない。
シルクと聞くと、着物や高級織物といった「伝統素材」のイメージが強い。しかし、ナノファイバー、パウダー、スポンジ、フィルム、複合材料などへ加工すれば、その用途は大きく広がる。
化粧品、ヘアケア、食品、医療、工業材料 等。
そこに、スマート養蚕による新たな生産技術が加われば、シルクは単なる伝統産業の素材ではなく、日本発のバイオ素材産業へと姿を変える可能性がある。
IVS2026に出展したながすな繭のブースは、そんなシルクの未来を垣間見せる展示だった。
■ながすな繭株式会社
■IVS2026 公式サイト
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代表取締役・ITライフハック代表
ITライフハック編集長・ライター
ITライフハック副編集長・ライター
