教育に取り残される子を作らないーEnumaが描く、子どもが“自走”するデジタル学習の未来

  • 2026-5-8
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テスラのイーロン・マスク氏らが支援した世界大会「Global Learning XPRIZE」で優勝し、世界的な注目を集めたEnuma。同社が展開する「トドさんすう」「トド英語」は、なぜこれほどまでに多くの子どもたちを自発的な学習へと駆り立てるのだろうか。
そこには、ゲーム業界出身者ならではの「間違いを強調しない」設計や、一人ひとりの特性に合わせた緻密なUX(ユーザー体験)の追求があった。

本インタビューでは、Enuma Japan 合同会社の事業本部長である趙南薫(チョウ・ナンフン)氏に、日本市場におけるデジタル学習の課題や、同社が描く次世代の教育戦略をうかがった。

■始まりは「親心」と「ゲームの力」
── まず、Enumaとして展開されている「トドシリーズ」の始まりのストーリーについて教えてください。
趙氏:Enumaの創業者は、アメリカで暮らす韓国人の夫婦です。2人とも元々はゲーム会社出身で、夫人はデザイナー、夫は開発者でした。彼らに第一子が生まれた際、その子が知的障害を持って生まれてきたことが、すべての原点となりました。障害のある子ども向けのソフトウェアを調べたところ、面白みに欠け、使いにくいものばかりで「今ある教材では、この子は取り残されてしまうのではないか」と感じたそうです。その切実な悩みに対し、彼らが出した答えは、自分たちの経験を活かした「我が子のための教材作り」でした。

ゲーム開発で培った「人を夢中にさせるテクノロジー」を、我が子のための教育に応用する。そこから生まれたのが「トドシリーズ」です。開発を進める中で夫妻は、障害の有無にかかわらず、一人で学べる教材を必要としている子どもがたくさんいると知りました。さらに、教育インフラの未整備や経済的な事情によって学ぶ機会を得られない子どもたちが世界中にいるという課題に向き合い、テクノロジーで「誰一人取り残さない教育」を実現するために会社が設立されました。

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── 「トドさんすう」から「トド英語」へと広がった背景には、どのような経緯があったのでしょうか。
趙氏:大きな転機は、イーロン・マスク氏らが支援する「Global Learning XPRIZE」という世界大会でした。これはアフリカ・タンザニアの教育インフラが整っていない地域で「教師や大人の助けを借りずに、タブレットだけで子どもが読み書き計算を習得できるか」を競うものです。

弊社は、すでにあった「トドさんすう」のノウハウに、新たに開発したリテラシー(読み書き)機能を加えて参加し、優勝しました。この時に培った「言語学習をデジタルで完結させる技術」を活かし、世界的に最もニーズの高い「英語」の製品を作ろうと決めたのが「トド英語」の始まりです。今や、トドさんすうは世界で1,360万ダウンロード、トド英語は世界で140万ダウンロードされ、シリーズで1,500ダウンロードを超えるほど成長しました。

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■子どもの「自走」を支える、徹底したUX設計
── 教育アプリは数多く存在しますが、「トドシリーズ」がこれほど支持される理由はどこにあるとお考えですか。
趙氏:私たちは「学習できない子ども」はいないと考えています。子どもによって異なるのは、理解に至るまでに必要な時間や反復の量、理解しやすいアプローチです。一度で概念をつかめる子もいれば、同じ活動を何度も繰り返したり、同じ概念を別の形で経験したりすることで、ようやく理解につながる子もいます。

だから、トドシリーズでは、カリキュラムに沿って学習を進める中にも、同じ概念にさまざまな形で触れられる設計にしています。さらに、子どもの興味や学習進度に応じて選べるコンテンツも用意しています。

学校では先生が教えるスタイルが一般的ですが、トドシリーズでは子どもが自ら取り組み、1人で学び進められることをベースにしています。

そのためには「楽しい」ことが不可欠ですが、ただ遊んで終わりではありません。遊びの中に、緻密なカリキュラムをしっかりと組み込んでいる。この「楽しさ」と「本格的な学習内容」の両立が、最大の支持理由だと自負しています。

── インクルーシブ教育を実現するために、具体的にどのようなテクノロジーやUX設計を取り入れているのでしょうか。
趙氏:一つは、同じ概念を学ぶのに複数のアプローチを用意することです。数字の「2」を学ぶにしても、文字で理解する子もいれば、リンゴが2つあるという図解で理解する子もいます。Aというやり方で理解できなくても、Bというゲームなら理解できる。そういった選択肢を無数に用意しています。

また、幼児向けに「迷わず」直感的に操作できることを大切にしています。左利きモードへの切り替えや、タップ、ドラッグなど、その子の身体的特徴や特性に合わせて入力方法を選べるようにし、説明文を読まなくても操作できる環境を整えています。

── 「楽しく続けられる学習体験」を設計するうえで、最も重要視している要素は何でしょうか。
趙氏:「間違いを強調しない」ことです。間違えたときに「×」の表示や強いエラー音で知らせることもできますが、私たちはそうした表現を使っていません。「トドさんすう」では、たとえばドラッグ操作で答えを選ぶ問題で、間違った答えを選んだとしても、動かしたものがするりと元に戻るだけ。これにより、子どもは「間違えることへの恐怖」を抱かず、トライアンドエラーを繰り返して自ら正解を学習していきます。

また、本人が気づかないほどの「スモールステップ」で学び進める設計にしています。少しずつ難易度が上がるため、「急に難しくなって挫折する」という壁をなくし、達成感を積み重ねることができます。さらに、自分が学びたい内容や挑戦したい問題を自分で選べる自由度が、主体的に学ぶモチベーションにつながっていると考えています。

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■日本市場の独自性と、ユーザーのリアルな声
── 日本のユーザーからはどのような反応がありますか。
趙氏:「他の教材は続かなかったのに、これだけは続いている」というお声を非常に多くいただきます。また、「知らないうちに単語が読めるようになっていて驚いた」という保護者の方も多いですね。

子どもが1人で学んでくれるので、親が横で「勉強しなさい」と言わずに済む。保護者のストレスが減り、自分の時間が持てるようになったという喜びの声も届いています。継続率や満足度が非常に高く、兄弟で続けて使ってくださるケースも多いのが特徴です。

── 日本市場特有の課題やニーズについては、どのように感じられていますか。
趙氏:英語に関しては「発音」への関心が非常に高いと感じています。早い段階から英語らしい発音を身につけてほしいというニーズがあり、私たちのフォニックス学習(スペルと発音の規則性を学ぶ学習)が、英語の音に慣れ親しむための役割を担っています。

また、日本では「オールイングリッシュで学ばせたい」という期待が比較的強く、当初は「なぜオールイングリッシュではないのか」という声もありました。トド英語では動画の一部に母国語(日本語)を取り入れていますが、だからこそ、子どもはストレスなく理解を深め、学び続けることができます。こうした言語面のサポートに加えて、日本の子どもに身近な題材や文化の紹介(ランドセルとお弁当の比較など)を取り入れ、「日本の子どものためのローカライズ」にも、かなり力を入れています。

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── 日本の家庭で子どもが無理なく英語学習を続けるためには、どのようなことが大切だと考えていますか。
趙氏:日本では「アウトプット(英会話)」を期待されることもありますが、十分なインプットがない状態では、子どもにとって負担になることもあります。

私たちの考え方は、まずゲーム感覚で「目と耳から大量のインプット」を行うことです。遊びの中で英語を浴びるうちに、少しずつアウトプットにつながり、力がついていく。この「ストレスのない自走」こそが、日本の家庭における英語学習の一つの選択肢になると考えています。

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■父としての視点、そして日本での未来
── 3児の父としての実体験は、事業戦略にどのように活かされていますか。
趙氏:私自身、我が子のために良い教材を探している中でこのプロダクトに出会い、魅了されて入社しました。「自分の子どもに使わせたい」という親の気持ちが、事業展開の原動力です。

3人の子どもを育てて実感したのは、性格も学習スタイルも一人ひとり全く違うということです。じっくり取り組む子もいれば、要領よく進める子もいます。その多様性を知っているからこそ、トドシリーズの「一人ひとりに合わせた学習」という考え方が正解だと自信を持って言えます。親としての焦りやもどかしさを共有できる立場であることは、私の大きな強みです。

── 韓国出身で日本に住まわれている中で、家庭教育(おうち教育)の違いは感じますか。
趙氏:韓国は非常に競争が激しく、「成果」や「先取り学習」を強く求める傾向があります。習い事も「将来の受験にどう役立つか」が基準になりがちです。

一方、日本は「協調性」や「人に迷惑をかけないこと」など、内面の成長を大切にされますよね。習い事も「子どもの好きなことを見つけてほしい」という温かさを感じます。

トドシリーズは、その両方の良さを満たしたいと考えています。子どもの「楽しい」という気持ちを尊重しながら、確かな「成果」も出していく。このバランスを大切にしたいですね。

── 最後に、今後日本でどのような展開を考えていますか。
趙氏:「縦と横の拡張」を考えています。縦軸では、トド英語を卒業した後の高学年向け新サービスを、この6月末頃にリリースする予定です。横軸では、他教科への展開や、ブラウザでの利用や専用デバイスとの連携などの可能性も模索しています。

日本には、子どもの学びを支える素晴らしい教育関連企業がたくさんあります。私たちもその中で、「デジタルだからこそ実現できる学び」を提案しながら、日本の教育をより良いものにしていくために、ともに取り組んでいきたいと考えています。

── ご多忙中のところ、本日はありがとうございました。

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今回の取材で印象的だったのは、トドシリーズが、学びの主導権を子ども自身に委ねている点だ。従来の教育が“教える側中心”であるのに対し、Enumaは子どもが自ら進むことを前提に設計されている。中でも「間違いを強調しない」という思想は象徴的だ。誤りを指摘するのではなく、試行錯誤そのものを学びに変える。この発想は、教育のあり方を根本から問い直すものだと感じた。

また、日本の英語教育に見られるアウトプット偏重の課題に対し、「遊びの中で自然にインプットする」設計も現実的な解決策となっている。

デジタル教育の正解がまだ見えない中で、「子どもが自走する状態」をゴールに据える同社の姿勢は明快だ。教え込むのではなく、子どもが自然に育っていく学びへ。その可能性を感じさせる取材だった。

Enuma Japan 合同会社

トド英語
https://www.todoschool.com/jp/english

トドさんすう
https://www.todoschool.com/jp/math

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