- 2025-9-29
- ITビジネス
- 契約業務におけるAIの利用と課題が明らかに!ドキュサイン、メディアラウンドテーブルを開催 はコメントを受け付けていません
ドキュサイン・ジャパンは2025年9月11日、契約業界におけるAI活用に関するメディアラウンドテーブルを開催した。ドキュサイン・ジャパンは、電子署名サービスの分野で世界No.1シェアを誇るDocusignの日本法人であり、契約DXの新たな潮流であるCLM(Contract Lifecycle Management)を通じ、企業のビジネスプロセスの最適化を支援してきた。ラウンドテーブルでは、ドキュサイン・ジャパン株式会社シニア・プロダクトマーケティングマネージャーの寺村翔氏が、契約業務におけるAIの利用実態と課題を明らかにする最新調査結果および「契約AI」の最新トレンドや将来展望について解説した。
■900を超えるアプリケーションとの連携実績がDocusignの強み
寺村氏は、Docusignという会社について次のように説明した。
Docusignは世界で幅広く事業を展開しており、フォーチュン500企業の約95%が同社のサービスを利用している。特に電子署名分野では世界を牽引するリーダーカンパニーである。180か国以上で利用実績があり、日本はDocusignが重点投資する8か国の1つに位置づけられている。
Docusignの大きな特徴のひとつとして、900を超えるアプリケーションとの連携が挙げられる。電子署名サービスは単体で利用するのではなく、企業のCRMや基幹システム、ERPなどと顧客情報をやり取りしながら利用されるケースが多い。そのため、幅広い連携実績を持つ点が、競合他社に対する大きな優位性となっている。
続いて、寺村氏は、古い契約プロセスがビジネスの価値を貶めている現状を指摘した。
基本的に、ビジネスというものは契約という行為によって成立している。我々はそう考えている。しかし、この契約プロセスが見直される機会は非常に少ない。契約プロセスが古いままでは、ビジネスやサービスが進化している現代においても、業務の進行速度が上がらず、結果としてビジネスの価値が本来あるべき水準よりも低下してしまうのが現状である。
実際、本来得られるはずのビジネス価値のおよそ5分の1が失われていることが明らかになっている。例えば年商100億円の企業であれば、そのうち約20億円が、古い契約プロセスに起因して失われている計算となる。
その原因としては、1. サイロ化したプロセス、2. 連携しない無数のツール群、3. 活用されず眠る契約データ、の3点が挙げられる。結果として契約業務のプロセスは“スパゲッティ状”に複雑化してしまっている。
特に大企業では、契約稟議や承認が法務部門だけで完結せず、事業部門の承認が必要となるケースが多い。さらに、法務部門が複数存在する場合には部門間での交渉も発生し、加えて顧客との交渉も重なるため、プロセス全体が過度に複雑化している点が大きな課題である。
加えて、こうしたプロセスを遂行するために導入されるツールが無数に増えていく。本来は効率化のためのツールが、乱立することで「使われない」「重複する」といった非効率を生み出し、逆に業務の停滞を招いている。
そして3つ目の課題が、今回の主題でもある「活用されず眠る契約データ」である。契約締結後の契約書は、電子署名を利用した場合、多くがPDF形式のデジタルデータとして戻される。しかし、その中身を構造的に理解・活用する手段がこれまで乏しく、単なる画像データとして保管されるにとどまっていた。せっかくデジタル化しても、その恩恵を十分に享受できない状況にあるのである。
こうした分断や非効率は、広範囲にわたって悪影響を及ぼし、ビジネス推進の大きな妨げとなっている。
■日本でも4割の企業が契約業務にAIを活用しているが、その半数がAIに「二度手間」を感じている
次に、寺村氏は、ドキュサイン・ジャパンが実施した「契約業務におけるAI活用の実態調査」の結果を紹介した。
調査によれば、日本企業の約4割が契約業務に何らかの形でAIを導入している。主な活用領域は、契約書のドラフト作成、レビュー、内容の要約などである。
しかし一方で、AIを導入している企業の約半数が「最終的には人間による確認が必要であり、信用しきれないため二度手間になる」と回答している。結果として、利便性向上を目的に導入したAIが、かえって新たな不便を生む状況に陥っていることが明らかになった。
■基盤型AIが契約業務におけるAI導入の課題を解決する
寺村氏は、契約業務におけるAI導入の課題を解決するには、基盤型AIの実現が重要であると説明した。
「我々は、基盤型AIこそがAI導入の課題を解決する答えになると考えている。契約とは、単に署名の締結を電子化すれば済むものではない。準備段階として契約書をドラフトから作成し、レビューを経て締結可能な状態に整えるフェーズがあり、その後には契約を実際に活用していくフェーズがある。その全体を俯瞰し、どこがボトルネックとなっているのか、どの部分を賢くすれば契約サイクルが円滑に回るのかを把握し、常にプロセスの評価と改善を繰り返すことが不可欠である」と述べた。
現在、市場に存在する多くのAI契約書レビューツールはレビュー機能に特化しており、契約ライフサイクル全体の最適化という視点を欠いている。これに対し、同氏は「基盤型AIというアプローチを通じて、契約ライフサイクル全体の改善が必要だ」と強調した。
海外ではすでに、基盤型の契約ライフサイクル管理システムを導入し、その基盤の上でAIを活用する段階へと移行しつつある。日本は検索や更新といった領域で依然として遅れているものの、今後は同様の時代へ移行していくと展望を示した。
■Docusignが開発中の新しいAIエンジン「docusign iris」
続いて、寺村氏は、本題ともいえるDocusignが開発中の新しいAIエンジン「docusign iris」について説明した。
寺村氏は次のように述べた。
「我々の提供するアグリーメントAI、すなわち契約AIに“docusign iris”というブランド名を付けた。irisは契約ライフサイクル全体の進化を支える新しいAIエンジンである。先の調査結果でも示された“AIの回答が信用できず結局人間が確認してしまう”という課題の多くは、技術構成に起因している。多くのツールベンダーはオープンソースの生成AIをそのまま利用しているが、Docusignは契約プロセス専用にゼロから再構築に取り組んでいる点が大きな違いだ。」
その強みとして、同氏は3点を挙げた。
第一に、Docusignは世界最大の契約ビジネス企業であり、契約業務に精通したトップクラスの専門家集団を有していること。
第二に、世界第2位の契約ビジネスベンダーと比べても10倍規模のサービスを展開しており、大規模利用に耐えるインフラとセキュリティを備えていること。
第三に、「信頼」をコアバリューに掲げ、すべての開発においてガバナンス・規制・コンプライアンスを重視している点である。
また、開発モデルとしては大きく二つを採用している。ひとつは、オープンソースのLLMをベースに契約業務に特化して最適化した独自開発モデル。もうひとつは「AIトラスト」という考え方に基づき、各国の異なる規制や商慣習に対応可能な仕組みである。Docusignは180か国以上でサービスを展開しており、どの国でも現地の規制や商習慣に適合したAI機能やレビューを提供できる点を強調した。
さらに、このAIエンジンを支える土台として、契約合意文書に特化した世界最大級の学習データが存在する。Docusignのプラットフォーム上では年間10億通近くの契約書がやり取りされており、その膨大なデータがAIモデルを強化することで、他社を圧倒する優位性を築いているという。
■AI機能の第1弾「Docusign Navigator」が2025年9月30日にリリース
続いて、寺村氏は、irisの第1弾となる「Docusign Navigator」について紹介した。
「Docusign Navigator」は、AI機能の第1弾としてリリースされるスマートリポジトリ、すなわち契約に特化したデータ保管庫である。これは、せっかく作成した契約書が社内で眠ったまま活用されていないという課題に対する解決策であり、契約書をAIで読み取り、活用可能な資産へと変えるものだ。
契約書をNavigator上に一元管理・保管することで、契約書の検索が容易になるだけでなく、契約データを他のシステムと連携させることも可能となる。例えば、契約書に含まれる商品情報や更新期限を会計システムに自動連携し、売上登録を自動化することができる。さらに、契約書の内容そのものを理解し、業務に直接活用することも可能となる。
「Docusign Navigator」の日本語対応版は、2025年9月30日にリリースされる予定である。
さらに寺村氏は、「Docusign Navigator」の利用例として、アカウント管理と文書の検索・保管に活用した事例を紹介した。
まずアカウント管理では、4月に発表した「IAM for CX(Customer Experience)」が基盤となる。これは顧客体験を改善するためのIAM機能であり、例えば金融機関における口座情報の変更や、結婚・出産といったライフイベントに伴う各種手続きを、すべてデジタルで自動化することが可能となる。
一方で今回の主題は、契約書の検索・保管とその活用である。Navigatorに保管された契約書は、AIがその内容を理解できるため、契約の合意事項や重要な条件を自動的に特定・抽出することが可能となる。例えば、顧客名から過去に締結したすべての契約書を一覧化したり、企業にとってリスクを残している契約だけを抽出し、法務レビューが必要なものを一括で特定することができる。
さらに、抽出されたデータはアクセス管理機能を通じて他部門と共有することが可能だ。そのため、Navigatorは単に法務部門の業務効率化にとどまらず、他部門がビジネス上の意思決定に契約データを活用する基盤としても利用できる。
続いて、寺村氏は、すでに「Docusign Navigator」を導入している海外企業の事例を紹介した。
同社では導入から1年弱で、年間約30万ドルのリスク削減効果が確認された。さらに、契約漏れによる利益損失を防止できたことで、約51万ドル(約6,500万円)の経済効果を得ることができたという。
■今後提供予定の「Agreement Desk」「AI-assisted review」「Obiligation Management」
寺村氏は、今後提供予定のAI機能についても簡単に紹介した。
まず「Agreement Desk」は、「Docusign Navigator」の拡張機能として2026年4月に提供予定である。契約の受付から署名完了までを効率化し、部門をまたいで複雑化するタスクを1つの画面で一元管理できる。
次に「AI-assisted review」は、契約書が企業のプレイブックや社内規定から逸脱していないかを自動でチェックするレビュー機能である。すでに英語版が提供されており、日本語版は2026年中の対応が予定されている。
さらに「Obligation Management」は、締結済み契約の履行状況を監視・可視化する機能である。特に更新を前提とした契約において、更新時期の見逃し防止や、更新時に見直すべきポイントのチェックを可能にする。こちらも2026年中の提供が予定されている。
■2025年以降は、irisを土台としたインテリジェント契約管理システムのベンダーとして進化を続ける
続いて寺村氏は、Docusignの主要顧客である金融業や製造業での支援イメージを紹介したうえで、これまでの歩みと今後の方向性について次のように語った。
Docusignは2003年に事業を開始し、まず電子署名サービスを提供した。電子署名は瞬く間に世界的なシェアを獲得し、現在ではデファクトスタンダードといえる存在となっている。その後、契約締結の前後工程にも多くの課題が存在することが明らかになったことから、2018年から2024年にかけて契約ライフサイクル管理(CLM)を提供。日本においても2023年からCLMの展開を開始した。
この基盤が整ったことで、同社は2024年以降、インテリジェント契約システム(IAM)を市場に投入し、契約プロセスの一つひとつの行為にAIを活用して効率化を進めている。さらに、2025年9月には「Docusign Navigator」が日本語版として提供開始される予定であり、寺村氏は「今後もあらゆるフェーズにおいて、AIによる機能拡張を継続的に提供していきたい」と締めくくった。
最後に寺村氏は、Docusignの年次イベント「Momentum25 Tokyo」を2025年10月2日に開催することを発表した。
会場は虎ノ門ヒルズフォーラム5階で、同イベントではDocusignが掲げる構想や、契約という側面から顧客ビジネスをどのように支援していくのかを紹介する予定である。寺村氏は「ぜひ会場に足を運んでいただき、我々の取り組みをご覧いただきたい」と来場を呼びかけた。
<Docusign Momentum25 Tokyo開催概要>
開催日: 2025年10月2日(木)
時間:セッション 13:00 - 17:45 / 懇親会: 17:45 - 19:00
開催地 : 虎ノ門ヒルズフォーラム5階
事前登録制(参加無料)
公式サイト:https://momentum.docusign.com/momentum25-tokyo/
今回のラウンドテーブルでは、ドキュサイン・ジャパンが契約業務におけるAI活用の現状と課題、そしてそれを解決する基盤型AIの重要性を示した。新AIエンジン「iris」や第1弾ソリューション「Docusign Navigator」を中心に、契約ライフサイクル全体を俯瞰した効率化の方向性が明確に打ち出された点は大きな意義を持つ。実際の導入事例では、リスク削減や利益損失の防止といった経済効果も具体的に示され、AI活用が単なる理論ではなく実務上の成果に直結することが裏付けられた。
さらに今後は、「Agreement Desk」「AI-assisted review」「Obligation Management」といった新機能の提供が予定されており、契約プロセスのさらなる高度化が期待される。2003年の創業以来、電子署名から契約ライフサイクル管理、そしてAIによるインテリジェント契約システムへと進化を遂げてきたDocusignは、今後も契約を軸にビジネスの価値を高めるパートナーとして存在感を強めていくだろう。
テクニカルライター 石井 英男
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